境界の旅人 9 [境界の旅人]
第二章 疑問
4
ほかにも、地学部、生物部と理科系もあり、ブラスバンド部、そして京都ならではの箏曲部もあった。ふたりはさすがに食傷気味になってぐったりしていた。
「ほんとにこの学校、よくもっていうほど、いっぱいクラブがあるね」
「ほかにもダンス部やアフレコ部もあるのよ」
「クッキング部もある。ワンダーフォーゲル部も!」
「いやぁ。もうこれ以上はムリっ! 目が見ることを拒絶してるよ~。もう感動する心の喫水線を超えたよ、完全に!」
「たしかにね・・・。なんかアクション映画を続けて五本ぐらい見ましたってカンジ・・・」
ふたりが校庭に面したベンチに座りながら、それでも上級生にもらったチラシにチェックを入れていると、向こうから鎧兜の衣裳をつけた一軍に出くわした。
「美月、あれ、何? なにかのお祭り?」
「シッ! 違うわよ!」
美月は黙れといったふうに、くちびるに指をあてて素早くたしなめた。
「うわぁ、彼女、タッパあるねぇ。いいねぇ。ウチに入らない?」
戦国武将は由利を見るなり大声で叫んだ。
「あら、こっちの子もカワイイね。お姫さまなんかぴったりだね」
普通の時代衣装の装束とは違い、いかにもゲームから飛び出てきましたといった恰好をした部員が口を開いた。
「えっ、え? 何をする部なんですか?」
「あ、うちのはね、まだ部には昇格してないの。コスプレ同好会なんだ~」
「・・・コスプレ・・・」
「楽しいよ。やってみない? 衣裳は自分たちで作るから洋裁の腕は向上するよ。ビジュアル的な美しさが求められるからね、化粧もするから当然、化粧技術も向上するよ。それからかなり難しいポーズもとらなきゃなんないんだ。だから体幹を鍛えるために運動も必要だよ。なんたってコスプレは自分の身体で表現しなければならないからね。もちろん演技力も必要」
青いカラコンをいれた戦国武将は、立て板に水としゃべり出した。
「自分の写真も撮ってもらう代わりに他の人の写真も撮るわけだから、カメラの専門的な知識も身に着けられるし、ひとつの作品が出来上がるまでには総合的な知識や能力が求められるし、柔軟な思考力もつくから、ここで培った能力は社会に出ても還元できるよ、どうお?」
たしかにそう思ってみれば、コスプレといえど、一口では言えないほど時間と力と努力とがかかっているように思える。そして燃えるような情熱も。
「へぇ~。すごいです・・・」
「じゃあ、コスプレ同好会に入ろうよ!」
かなり押しが強い。
「だけどもうちょっと他の部も回ってから、考えさせてください」
美月はことばに詰まっている由利に代わって、京都人らしく「考えさせてくれ」と婉曲に断った。
「彼女たちぃ~、いい返事、待ってるからねぇ~」
コスプレ同好会の上級生は、まったくめげることなくフレンドリーに大きく手を振るという戦国武将にあるまじき姿で見送ってくれた。態度と装束にギャップがありすぎてシュールだ。
「どうするの、由利?」
「ええ? どうするって・・・? もちろん入らないけど・・・?」
「お姉さんたち、あなたにロックオンしてたじゃない?」
「いやいや、たしかにコスプレも面白そうだとは思うよ。だけどコスプレするためにわざわざ東京くんだりから京都へ来たんじゃないもん」
「うふふ、そうなの? 断るの大変そうだね」
美月はさもおかしそうに笑った。
向こうから小柄な少年がズボンのポケットに手を突っ込んでこっちへ向かってくる。それを見たとたん、由利の身体は凍りついた。
「あ、あれは・・・三郎・・・」
隣にいた美月は別段驚きもせず、あたかも普段親しく接しているクラスメイトのように、三郎に声をかけた。
「あら、椥辻(なぎつじ)君」
美月が三郎のことを、当たり前のようになんの躊躇もなく「椥辻」と呼んだことで由利は驚いた。先日あんなにしつこく名前を聞いても三郎は決して口を割ろうとしなかった。なのにいつの間に美月は三郎とこんなに仲良くなって、しかも苗字まで知っているのだろう?
「ああ、加藤さん」
三郎はこれまで見たこともないほど親し気な笑顔を返した。
「椥辻君も部活を見学?」
「まあ、そういうわけでもないんだけどね。じゃあ加藤さんや小野さんたちも?」
「うん。一応茶道部に入ろうってふたりで決めたんだけど、一度、入部しちゃうと他の部がどんな活動をしているかわかんないから。見聞を広げるためにも一応できる範囲で、見学できるものは見学しておこうかなって思って」
「ああ、それはいいよね。いかにも加藤さんらしい」
三郎はウンウンといった調子で同意した。
「椥辻君はどこの部に入るつもり?」
「う~ん、部活もしたくないわけじゃないんだけど・・・。実はうちはね、ちっさい流派なんだけど能をやっているんだよね」
「あら、すごい。お家元なのね?」
美月は感心したように言った。
「いやいや、家元なんて。そんな大それたもんじゃないよ。普段オヤジは会社勤めしてるし、お弟子さんといっても二十人ぐらいの細々としたもんなんだけどね。ただ室町時代から続く古い流派なんで、絶やしちゃもったいないっていう理由だけで存続しているようなモンなんだけど。だけどこの間オヤジがぎっくり腰になっちゃってさぁ、舞えないもんだからね。代わりにおれが師範代としてお弟子さんたちを教えなきゃならないんだな。だから放課後はまっすぐ家に帰らなきゃなんないんだよね」
「へえ、大変じゃないの! お父さん、大丈夫?」
「うん、まあまあ。レントゲンを撮ってもらったら、さしたる異常もなさそうだし。日にち薬で良くなっていくんじゃないかな?」
一体何のこと? 三郎は能の家の跡取り? あの子は天涯孤独の身じゃなかったの? 由利は頭がおかしくなりそうだった。
「うん、まぁ一時的なことだからさ。オヤジの腰がよくなったら、ぼくもどっか入ろかなぁと思ってさ。一応目星ぐらいはつけておこうかなって思ってね。わりと気楽に参加できるものに限られるけど」
「そうね。ワンダーフォーゲル部とかリクリエーション的な部活もあるわよ」
「ああ、なんかよさそうだね」
しばらく間が開いたあと、美月が改めて感心したように言った。
「それにしてもねぇ。椥辻君が能をねぇ。すでに師範代として教えてるわけなんでしょ? すごいねぇ」
「まぁさ、小さいころからやらされてるからねぇ。でもさ、家の中のことしか知らないのもどうかと思うよ」
三郎のあまりの豹変ぶりに由利は口も利くこともできず、ただただあっけに取られてそれを見ていた。
そこへ稽古着に着替え弓を携えた常磐井が、連れと思しき何人かと一緒に男子更衣室から由利たち三人のところへ通りかかった。常磐井は三郎を目にすると、ハッとなって一瞬表情が険しくなった。急に群れからひとり離れて、ずんずんと由利たちのほうへ駆けて寄ってくると声をかけた。
「やあ、加藤さん、小野さん。これから見学?」
「あら、常磐井君。え、ううん。もう帰ろうかなって思っていたとこ。ちょうど椥辻君に会っちゃって。えっとあなたは弓道部?」
ものおじしない美月が答えた。
「ああ、オレたち今から稽古なんだけど、よかったら見てかない?」
「ううん、わたしたちもう茶道部に決めたところなのよ。せっかく誘ってくれたのに申し訳ないんだけど」
常磐井はそれでも執拗に引き留めた。
「そんでもいいじゃん、せっかくいい機会なんだからさぁ。弓道って高校生の部活としては思いっきり珍しいんだぜ? 記念にオレが弓をまっすぐに命中させるからさ、オレのシビれるようにカッコいい雄姿を見てってよ」
いつも無口で、愛想のない常磐井がこんなふうに冗談交じりに茶化しながら誘ってくること自体、尋常ではない。裏に何かあると由利は踏んだ。
「おーい、おまえら、この子たちが見学したいんだとさ! 弓道場の方へ連れて行ってやってくれないか!」
常磐井は他の部員に声を掛けた。他の部員は分かったといったように「おう」と一声叫んで、大きく手を挙げた。
「あ、悪いけど先に行ってくんないかな? オレもあとですぐに行くからさ」
そして美月と由利を三郎からさりげなく引き離そうとした。
「さあ、あっちへ」
常磐井は仲間たちがいる向こうのほうへ送り出すために、由利の背中に手を押し当てた。
「!」
この感触!
由利はめまいを感じた。
あたしはこの手を知っているような気がする・・・。
なぜ? ついこの間知り合ったばかりなのに?
「あら、常磐井君、どうしたの? 一緒に来ないの?」
美月が訊いた。
「あ、オレさ、アイツにちょっと用があるから・・・」
常磐井は名前を言わずに目で三郎を制した。
「ちょっと言い出しっぺが何よ! 常磐井君! すぐに来てよ!」
「おお、解ってるって!」
由利は気になりながらも三郎に近づいて行った常磐井の傍から離れた。
常磐井は辺りに三郎の他に誰もいなくなったことを確かめると口を切った。
「おい、おまえ、どんな魂胆があってここにいる?」
常磐井は小柄で華奢な三郎を見下ろしてすごんだ。
「何のことでしょう? 常磐井さん。ぼくはただ加藤さんたちと話をしていただけだけど?」
三郎はそんなことはまったく意に介していないというふうに、すました顔で受け流した。
「フン・・・。みんなは騙せても、このオレは騙せないからな。術を掛けただろう?」
「ああ、あんたも術にかかってくれない面倒くさい人間のひとりなんだね」
フンと三郎は鼻で嗤って、挑むような眼で常磐井を見上げた。
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ほかにも、地学部、生物部と理科系もあり、ブラスバンド部、そして京都ならではの箏曲部もあった。ふたりはさすがに食傷気味になってぐったりしていた。
「ほんとにこの学校、よくもっていうほど、いっぱいクラブがあるね」
「ほかにもダンス部やアフレコ部もあるのよ」
「クッキング部もある。ワンダーフォーゲル部も!」
「いやぁ。もうこれ以上はムリっ! 目が見ることを拒絶してるよ~。もう感動する心の喫水線を超えたよ、完全に!」
「たしかにね・・・。なんかアクション映画を続けて五本ぐらい見ましたってカンジ・・・」
ふたりが校庭に面したベンチに座りながら、それでも上級生にもらったチラシにチェックを入れていると、向こうから鎧兜の衣裳をつけた一軍に出くわした。
「美月、あれ、何? なにかのお祭り?」
「シッ! 違うわよ!」
美月は黙れといったふうに、くちびるに指をあてて素早くたしなめた。
「うわぁ、彼女、タッパあるねぇ。いいねぇ。ウチに入らない?」
戦国武将は由利を見るなり大声で叫んだ。
「あら、こっちの子もカワイイね。お姫さまなんかぴったりだね」
普通の時代衣装の装束とは違い、いかにもゲームから飛び出てきましたといった恰好をした部員が口を開いた。
「えっ、え? 何をする部なんですか?」
「あ、うちのはね、まだ部には昇格してないの。コスプレ同好会なんだ~」
「・・・コスプレ・・・」
「楽しいよ。やってみない? 衣裳は自分たちで作るから洋裁の腕は向上するよ。ビジュアル的な美しさが求められるからね、化粧もするから当然、化粧技術も向上するよ。それからかなり難しいポーズもとらなきゃなんないんだ。だから体幹を鍛えるために運動も必要だよ。なんたってコスプレは自分の身体で表現しなければならないからね。もちろん演技力も必要」
青いカラコンをいれた戦国武将は、立て板に水としゃべり出した。
「自分の写真も撮ってもらう代わりに他の人の写真も撮るわけだから、カメラの専門的な知識も身に着けられるし、ひとつの作品が出来上がるまでには総合的な知識や能力が求められるし、柔軟な思考力もつくから、ここで培った能力は社会に出ても還元できるよ、どうお?」
たしかにそう思ってみれば、コスプレといえど、一口では言えないほど時間と力と努力とがかかっているように思える。そして燃えるような情熱も。
「へぇ~。すごいです・・・」
「じゃあ、コスプレ同好会に入ろうよ!」
かなり押しが強い。
「だけどもうちょっと他の部も回ってから、考えさせてください」
美月はことばに詰まっている由利に代わって、京都人らしく「考えさせてくれ」と婉曲に断った。
「彼女たちぃ~、いい返事、待ってるからねぇ~」
コスプレ同好会の上級生は、まったくめげることなくフレンドリーに大きく手を振るという戦国武将にあるまじき姿で見送ってくれた。態度と装束にギャップがありすぎてシュールだ。
「どうするの、由利?」
「ええ? どうするって・・・? もちろん入らないけど・・・?」
「お姉さんたち、あなたにロックオンしてたじゃない?」
「いやいや、たしかにコスプレも面白そうだとは思うよ。だけどコスプレするためにわざわざ東京くんだりから京都へ来たんじゃないもん」
「うふふ、そうなの? 断るの大変そうだね」
美月はさもおかしそうに笑った。
向こうから小柄な少年がズボンのポケットに手を突っ込んでこっちへ向かってくる。それを見たとたん、由利の身体は凍りついた。
「あ、あれは・・・三郎・・・」
隣にいた美月は別段驚きもせず、あたかも普段親しく接しているクラスメイトのように、三郎に声をかけた。
「あら、椥辻(なぎつじ)君」
美月が三郎のことを、当たり前のようになんの躊躇もなく「椥辻」と呼んだことで由利は驚いた。先日あんなにしつこく名前を聞いても三郎は決して口を割ろうとしなかった。なのにいつの間に美月は三郎とこんなに仲良くなって、しかも苗字まで知っているのだろう?
「ああ、加藤さん」
三郎はこれまで見たこともないほど親し気な笑顔を返した。
「椥辻君も部活を見学?」
「まあ、そういうわけでもないんだけどね。じゃあ加藤さんや小野さんたちも?」
「うん。一応茶道部に入ろうってふたりで決めたんだけど、一度、入部しちゃうと他の部がどんな活動をしているかわかんないから。見聞を広げるためにも一応できる範囲で、見学できるものは見学しておこうかなって思って」
「ああ、それはいいよね。いかにも加藤さんらしい」
三郎はウンウンといった調子で同意した。
「椥辻君はどこの部に入るつもり?」
「う~ん、部活もしたくないわけじゃないんだけど・・・。実はうちはね、ちっさい流派なんだけど能をやっているんだよね」
「あら、すごい。お家元なのね?」
美月は感心したように言った。
「いやいや、家元なんて。そんな大それたもんじゃないよ。普段オヤジは会社勤めしてるし、お弟子さんといっても二十人ぐらいの細々としたもんなんだけどね。ただ室町時代から続く古い流派なんで、絶やしちゃもったいないっていう理由だけで存続しているようなモンなんだけど。だけどこの間オヤジがぎっくり腰になっちゃってさぁ、舞えないもんだからね。代わりにおれが師範代としてお弟子さんたちを教えなきゃならないんだな。だから放課後はまっすぐ家に帰らなきゃなんないんだよね」
「へえ、大変じゃないの! お父さん、大丈夫?」
「うん、まあまあ。レントゲンを撮ってもらったら、さしたる異常もなさそうだし。日にち薬で良くなっていくんじゃないかな?」
一体何のこと? 三郎は能の家の跡取り? あの子は天涯孤独の身じゃなかったの? 由利は頭がおかしくなりそうだった。
「うん、まぁ一時的なことだからさ。オヤジの腰がよくなったら、ぼくもどっか入ろかなぁと思ってさ。一応目星ぐらいはつけておこうかなって思ってね。わりと気楽に参加できるものに限られるけど」
「そうね。ワンダーフォーゲル部とかリクリエーション的な部活もあるわよ」
「ああ、なんかよさそうだね」
しばらく間が開いたあと、美月が改めて感心したように言った。
「それにしてもねぇ。椥辻君が能をねぇ。すでに師範代として教えてるわけなんでしょ? すごいねぇ」
「まぁさ、小さいころからやらされてるからねぇ。でもさ、家の中のことしか知らないのもどうかと思うよ」
三郎のあまりの豹変ぶりに由利は口も利くこともできず、ただただあっけに取られてそれを見ていた。
そこへ稽古着に着替え弓を携えた常磐井が、連れと思しき何人かと一緒に男子更衣室から由利たち三人のところへ通りかかった。常磐井は三郎を目にすると、ハッとなって一瞬表情が険しくなった。急に群れからひとり離れて、ずんずんと由利たちのほうへ駆けて寄ってくると声をかけた。
「やあ、加藤さん、小野さん。これから見学?」
「あら、常磐井君。え、ううん。もう帰ろうかなって思っていたとこ。ちょうど椥辻君に会っちゃって。えっとあなたは弓道部?」
ものおじしない美月が答えた。
「ああ、オレたち今から稽古なんだけど、よかったら見てかない?」
「ううん、わたしたちもう茶道部に決めたところなのよ。せっかく誘ってくれたのに申し訳ないんだけど」
常磐井はそれでも執拗に引き留めた。
「そんでもいいじゃん、せっかくいい機会なんだからさぁ。弓道って高校生の部活としては思いっきり珍しいんだぜ? 記念にオレが弓をまっすぐに命中させるからさ、オレのシビれるようにカッコいい雄姿を見てってよ」
いつも無口で、愛想のない常磐井がこんなふうに冗談交じりに茶化しながら誘ってくること自体、尋常ではない。裏に何かあると由利は踏んだ。
「おーい、おまえら、この子たちが見学したいんだとさ! 弓道場の方へ連れて行ってやってくれないか!」
常磐井は他の部員に声を掛けた。他の部員は分かったといったように「おう」と一声叫んで、大きく手を挙げた。
「あ、悪いけど先に行ってくんないかな? オレもあとですぐに行くからさ」
そして美月と由利を三郎からさりげなく引き離そうとした。
「さあ、あっちへ」
常磐井は仲間たちがいる向こうのほうへ送り出すために、由利の背中に手を押し当てた。
「!」
この感触!
由利はめまいを感じた。
あたしはこの手を知っているような気がする・・・。
なぜ? ついこの間知り合ったばかりなのに?
「あら、常磐井君、どうしたの? 一緒に来ないの?」
美月が訊いた。
「あ、オレさ、アイツにちょっと用があるから・・・」
常磐井は名前を言わずに目で三郎を制した。
「ちょっと言い出しっぺが何よ! 常磐井君! すぐに来てよ!」
「おお、解ってるって!」
由利は気になりながらも三郎に近づいて行った常磐井の傍から離れた。
常磐井は辺りに三郎の他に誰もいなくなったことを確かめると口を切った。
「おい、おまえ、どんな魂胆があってここにいる?」
常磐井は小柄で華奢な三郎を見下ろしてすごんだ。
「何のことでしょう? 常磐井さん。ぼくはただ加藤さんたちと話をしていただけだけど?」
三郎はそんなことはまったく意に介していないというふうに、すました顔で受け流した。
「フン・・・。みんなは騙せても、このオレは騙せないからな。術を掛けただろう?」
「ああ、あんたも術にかかってくれない面倒くさい人間のひとりなんだね」
フンと三郎は鼻で嗤って、挑むような眼で常磐井を見上げた。
2019-06-16 00:05
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コメント(2)
既視感って不思議ですよね。この場合は術にかかってないってことなのかもしれないですけど、会ったことがないにも拘らず、この人には確かに遭ったことがあるって感じはよくわかります。
登場人物が揃ってきましたね。
学生服、高校生、術というだけで、東京魔人學園剣風帖というゲームを思い出してしまいます。これも私はコンプリートできなかったのですが。新宿を舞台にしたゲームでした。
by Yui (2019-06-17 09:04)
そうなのですね。
まぁ、東京ならぬ、京都魔人学園剣風帳ですかね。
夫が常に書いたら横で読んでくれていたのですが、
「なんか『帝都物語』思い出したわw」って言ってました。
ま、加藤って出てこないですけど、(あっ、美月って加藤だっけ? 汗
by sadafusa (2019-06-17 15:27)