境界の旅人14 [境界の旅人]
第四章 秘密
1
期末試験も残すところあと一日になった。三時間目で今日の試験が終わって、家に帰るとLineに未読のメッセージが入っていた。玲子からだ。
「今日は十時ごろには手が空くので、必ず電話してね」
ユーモアのセンスに乏しい玲子が選んだにしては可愛いスタンプが、メッセージの下に一緒に付けてあった。
風呂に入ってから、軽く浴室を冷水で掃除したあと、時計を見れば十時を過ぎていた。由利は玲子に電話をあわてて電話をかけた。
「もしもし、ママ?」
「ああ、由利、元気にしてる?」
「うん」
嬉しそうな玲子声が聞こえる。最後に電話してから二週間以上、間が空いていた。
「由利、学校はいつから休み?」
「えっと、今月の半ばぐらいかな」
「じゃあ、学校が終わったら、一旦、顔を見せに東京へ戻っていらっしゃい。久しぶりに親子水入らずでおいしいものでも食べましょうよ」
「うん!!!!!」
「それからショッピングにでも行ってお洋服でも買ってあげようかな。好きなのを買いなさい」
「わーい、ほんと?」
「ええ。由利、おねだりしていいわよ」
玲子もひとりきりで寂しくなったらしい。
「いつ帰ろうか?」
「あ、そうだわ」
玲子が思い出したように言った。
「言った傍から申し訳ないんだけど、ママね、七月の二十日までは学会でニューヨークに行かなきゃならないの。帰ってくるのが二十一になると思うから、それからにしてもらっていい?」
「二十一日? その日に成田に着くってこと?」
「時間はまだわからないけど、たぶんその日は遅くなると思うのね。だからそうね、二十二日以降にしてもらえると助かるんだけど・・・。由利は何か予定があった?」
「うん、たぶん部活が毎日入っているはずだけど、いいよ、そんなの。家庭の事情だし。ママは休みが取れそう?」
「そうね。じゃあ、二十二、二十三と休みを取らせてもらえるよう、職場に掛け合ってみるわ。何かあったらまた連絡するから」
「うん、ママも。いくら若く見えてもトシなんだから無理は禁物じゃぞ」
お道化て由利が、母親を労わった。
「あはは、そうよね。ママもオバサンらしくおとなしくしておくわ。ありがと、由利。こっちに来るのを楽しみにしているから。それまで風邪をひかないように大事にしていてね。じゃね。おやすみなさい」
「うん、ママもね。おやすみなさい」
玲子との電話での会話は、女同士につきもののだらだらとした長話もなく、実にあっさりとしたものだった。
そのあとスマホのカレンダーアプリに帰省の予定を記入して、由利は明日の地理のテストの勉強をするためにノートと教科書を開いた。
由利にとっては三郎の存在自体が、ひとつの大きな謎だった。
三郎は自分のことを「時間と空間がお互いに絡みあわないように、まっすぐ進んで行くのを見張っている、ポイントごとの番人」だと説明した。
美月は「椥辻(なぎつじ)三郎」と会話したことなどすっかり忘れていた。いや単に「忘れた」というより、まったく覚えていない。三郎が何らかの方法で美月やクラスメイトの記憶を改ざんしてしまっている。
「時間と空間の番人・・・。それって一体どういう意味よ?」
まったく信じがたいことだが、その段で考えていくと、三郎は普通の人間ではないということになる。
いつから番人になったのかは知らないが、少なくとも昨日や今日ではないはずだ。それならいつぞや『昔を偲んでいた』というセリフも理解できる。過去のある時点から何かをきっかけにして、必ず死ぬ運命にある人間を超えた存在として、三郎が今日まで生きてきたのであれば。
「三郎は、あたしのことを『土地の感情をゆるがすような要因がある』存在かもしれないって言ってた。それってどういう意味なんだろう? 解らない・・・そんなの解るはずがない」
由利は京都に来てから自分の身の回りに起こった超常現象を、ひとつひとつ思い返してみた。
最初は京都に来たばかりのとき、まず御所の近衛邸で妖怪たちに襲われた。
三郎は化け物たちのことを、煩悩が強すぎてこの世にとどまっている者たちだと言った。由利はそのとき、何かのはずみで物の怪たちが棲息している次元のチャンネルに合ってしまったらしい。これは一応三郎の説明で納得できる。
そしてふたつめは、中世の京(みやこ)に魂だけがタイムスリップしてでその時代の女御の身体の中へと入ってしまった。女御はおそらく帝の臣下と道ならぬ恋をしていた。
最後のみっつめは、第二次世界大戦直後の京都へタイムスリップしたこと。
この三つは、状況が似ているようで似ていない。
由利はふと弓道部を見学した日のことを思い出した。
由利と美月が一緒になって三郎と話していたとき、常磐井が三郎に一瞬向けたあの険しい目つき。三郎を見たときの常磐井の反応はいつもと違い、明らかにおかしかった。たぶん常磐井は、三郎が尋常な人間でないことに勘づいている。
「あのとき、常磐井君は実はあたしと美月を三郎から引き離したくて、弓道部の見学をしろって言ったんじゃないかな?」
地理の教科書を見つめながら、由利はぼんやり考えた。
「常磐井君なら、何か知ってるかもしれない」
おそらく常磐井は由利の力になってくれるに違いない。とはいえ確固とした根拠はないのだが…。女御と公卿の秘密の恋には常磐井が、何らかの形で関わっているように思えてならない。それだけに常磐井に安易に近づくのはためらわれた。
由利はここまで考えて、ほうーっと長いため息をひとつ付いた。
「いやいや、解決の糸口のつかないことでぐちゃぐちゃ悩んでいるより、明日のテストのことに集中しようっと」
由利はイヤホンをつけ、今ハマっているジャスティンの『パーパス』のアルバムの音量をいつもより大きくした。
一学期の期末試験も最終日を迎えた。
精神的に開放された桃園高校の生徒たちの多くは、連れ立ってマックかモスバーガーで昼食を食べ、そのあと映画を見に行く。行先はJR二条駅近くの「東宝シネマズ二条」か、あるいは繁華街にある「Movix京都」だろう。おそらくはアイドル映画かアクション映画をみんなで見るはずだ。
美月も出町の商店街に比較的新しくできた「出町座」で一緒に見ようと誘ってきた。
「ねぇ、由利。出町座で『サスペリア』見ない?」
「『サスペリア』? 何か聞いたことがあるような・・・?」
由利は首をかしげた。
「そうだよ。1977年に作られた映画だもん」
「それ、どんな映画?」
由利は嫌な予感に襲われて、質問した。
「ん~、オカルトかな? HDリマスター版なんだって。鬼才ダリオ・アルジェントが創造したゴシックホラーの金字塔だよ?」
理屈の好きな美月は、また難しいことを言ってきた。
「却下。無理無理。怖いの、絶対に見ない主義」
「え~、そうなのぉ~。怖いの見るとすっきりしていいのに」
いやいや、と由利は心の中で顔を横に振った。現実世界でもそうとう怖い思いをしているのに、映画まで怖いのはお断り。だがよくしたもので、やはりオカルト好きの友人が美月と一緒に見たいと申し出たらしく、しつこく誘ってこなかった。
三時間目が終了するベルがなるや否や生徒たちは喜び勇んで帰る用意をした。
「美月! 出町座は座席指定できないんだから、早く行くよ!」
「うん、チカちゃん。わかった!」
美月たちはあわてて教室を飛び出していった。
気が付けば教室にはちらほらとしか人が残っていなかった。由利はこのあと予定がなかったので、のんびりと帰り支度していると、これまでほとんど話したことがないクラスメイトがおずおずと近づいて来た。
それは、クラスの女子カーストでは最上位についている河本春奈だった。
「ねぇ、小野さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・?」
華やかな雰囲気があり、きゅんととがったあごと大きな瞳が印象的だった。だが由利にとって普段は、まったくと言っていいほど交わりの無い子だった。上目遣いで挑むようにじっとこちらを見上げて来る。その瞳の中に不穏なものが隠されていることを由利は感じ取った。
「河本さん。うん、聞きたいことって? なあに?」
相手に自分が警戒していることを悟らせないように、少し鈍いふりを装った。
「あの・・・、小野さんってもしかしたら、常磐井君と付き合ってるの?」
春奈は由利の心の内を探るように訊いた。春奈の鋭さに由利は驚いた。
「え、常磐井君? ううん。ないない、そんなの。付き合ってなんか」
由利はとっさに両手を振って、全否定した。
「そうなの?」
それでもどこか疑いを向けた目で、春奈は問い質した。
「うん」
「じゃあ、もしあたしが常磐井君にコクって、付き合うことになったとしても小野さんは別段あたしに文句はないよね?」
「え、うん。あたしと常磐井君とはそういう意味では、何の関係もないし。彼がどんな人と付き合おうが、あたしが文句言える筋合いはないのは確かだけど?」
「ふうん。そうなんだ。それ、本当?」
春奈の目はそれでもどこか警戒の色があった。
「うん。そう。だけどどうして?」
「常磐井君の視線をたどっていくと、たいてい小野さんに突き当たるから。常磐井君、小野さんのことが好きなのかなって」
「常磐井君が実際にあたしをどう思っているかなんて・・・そんなこと、あたしにだって解らないよ。でもあたしは彼のことを何とも思ってないし。河本さんが気にすることないんじゃない?」
実際は何とも思っていないどころか、相当常磐井のことが気になっていたが、春奈の前で自分の本心をさらすわけにはいかなかった。
「じゃあ、あたしがもし常磐井君と付き合うことになったとしても小野さん、邪魔してこないでね」
「もちろん。それはもう」
由利の答えを聞いて春奈は、一応納得したようだ。
「あたし・・・絶対に彼のこと、振り向かせて見せるから!」
春奈は由利に宣言した。しかし由利は心の中で、河本春奈の幼稚な態度にムカっと来ていた。ことばで恋敵から言質を取って牽制しようとしても、なるようにしかならないのが男女の仲だ。だからと言って今の自分は、春奈の恋敵ですらないのだが…。
「あ、うん。河本さん。頑張ってね」
「うん。言いたかったことはそれだけ。じゃね」
由利から逃げ去るように春奈は、バタバタと教室を飛び出して行った。
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期末試験も残すところあと一日になった。三時間目で今日の試験が終わって、家に帰るとLineに未読のメッセージが入っていた。玲子からだ。
「今日は十時ごろには手が空くので、必ず電話してね」
ユーモアのセンスに乏しい玲子が選んだにしては可愛いスタンプが、メッセージの下に一緒に付けてあった。
風呂に入ってから、軽く浴室を冷水で掃除したあと、時計を見れば十時を過ぎていた。由利は玲子に電話をあわてて電話をかけた。
「もしもし、ママ?」
「ああ、由利、元気にしてる?」
「うん」
嬉しそうな玲子声が聞こえる。最後に電話してから二週間以上、間が空いていた。
「由利、学校はいつから休み?」
「えっと、今月の半ばぐらいかな」
「じゃあ、学校が終わったら、一旦、顔を見せに東京へ戻っていらっしゃい。久しぶりに親子水入らずでおいしいものでも食べましょうよ」
「うん!!!!!」
「それからショッピングにでも行ってお洋服でも買ってあげようかな。好きなのを買いなさい」
「わーい、ほんと?」
「ええ。由利、おねだりしていいわよ」
玲子もひとりきりで寂しくなったらしい。
「いつ帰ろうか?」
「あ、そうだわ」
玲子が思い出したように言った。
「言った傍から申し訳ないんだけど、ママね、七月の二十日までは学会でニューヨークに行かなきゃならないの。帰ってくるのが二十一になると思うから、それからにしてもらっていい?」
「二十一日? その日に成田に着くってこと?」
「時間はまだわからないけど、たぶんその日は遅くなると思うのね。だからそうね、二十二日以降にしてもらえると助かるんだけど・・・。由利は何か予定があった?」
「うん、たぶん部活が毎日入っているはずだけど、いいよ、そんなの。家庭の事情だし。ママは休みが取れそう?」
「そうね。じゃあ、二十二、二十三と休みを取らせてもらえるよう、職場に掛け合ってみるわ。何かあったらまた連絡するから」
「うん、ママも。いくら若く見えてもトシなんだから無理は禁物じゃぞ」
お道化て由利が、母親を労わった。
「あはは、そうよね。ママもオバサンらしくおとなしくしておくわ。ありがと、由利。こっちに来るのを楽しみにしているから。それまで風邪をひかないように大事にしていてね。じゃね。おやすみなさい」
「うん、ママもね。おやすみなさい」
玲子との電話での会話は、女同士につきもののだらだらとした長話もなく、実にあっさりとしたものだった。
そのあとスマホのカレンダーアプリに帰省の予定を記入して、由利は明日の地理のテストの勉強をするためにノートと教科書を開いた。
由利にとっては三郎の存在自体が、ひとつの大きな謎だった。
三郎は自分のことを「時間と空間がお互いに絡みあわないように、まっすぐ進んで行くのを見張っている、ポイントごとの番人」だと説明した。
美月は「椥辻(なぎつじ)三郎」と会話したことなどすっかり忘れていた。いや単に「忘れた」というより、まったく覚えていない。三郎が何らかの方法で美月やクラスメイトの記憶を改ざんしてしまっている。
「時間と空間の番人・・・。それって一体どういう意味よ?」
まったく信じがたいことだが、その段で考えていくと、三郎は普通の人間ではないということになる。
いつから番人になったのかは知らないが、少なくとも昨日や今日ではないはずだ。それならいつぞや『昔を偲んでいた』というセリフも理解できる。過去のある時点から何かをきっかけにして、必ず死ぬ運命にある人間を超えた存在として、三郎が今日まで生きてきたのであれば。
「三郎は、あたしのことを『土地の感情をゆるがすような要因がある』存在かもしれないって言ってた。それってどういう意味なんだろう? 解らない・・・そんなの解るはずがない」
由利は京都に来てから自分の身の回りに起こった超常現象を、ひとつひとつ思い返してみた。
最初は京都に来たばかりのとき、まず御所の近衛邸で妖怪たちに襲われた。
三郎は化け物たちのことを、煩悩が強すぎてこの世にとどまっている者たちだと言った。由利はそのとき、何かのはずみで物の怪たちが棲息している次元のチャンネルに合ってしまったらしい。これは一応三郎の説明で納得できる。
そしてふたつめは、中世の京(みやこ)に魂だけがタイムスリップしてでその時代の女御の身体の中へと入ってしまった。女御はおそらく帝の臣下と道ならぬ恋をしていた。
最後のみっつめは、第二次世界大戦直後の京都へタイムスリップしたこと。
この三つは、状況が似ているようで似ていない。
由利はふと弓道部を見学した日のことを思い出した。
由利と美月が一緒になって三郎と話していたとき、常磐井が三郎に一瞬向けたあの険しい目つき。三郎を見たときの常磐井の反応はいつもと違い、明らかにおかしかった。たぶん常磐井は、三郎が尋常な人間でないことに勘づいている。
「あのとき、常磐井君は実はあたしと美月を三郎から引き離したくて、弓道部の見学をしろって言ったんじゃないかな?」
地理の教科書を見つめながら、由利はぼんやり考えた。
「常磐井君なら、何か知ってるかもしれない」
おそらく常磐井は由利の力になってくれるに違いない。とはいえ確固とした根拠はないのだが…。女御と公卿の秘密の恋には常磐井が、何らかの形で関わっているように思えてならない。それだけに常磐井に安易に近づくのはためらわれた。
由利はここまで考えて、ほうーっと長いため息をひとつ付いた。
「いやいや、解決の糸口のつかないことでぐちゃぐちゃ悩んでいるより、明日のテストのことに集中しようっと」
由利はイヤホンをつけ、今ハマっているジャスティンの『パーパス』のアルバムの音量をいつもより大きくした。
一学期の期末試験も最終日を迎えた。
精神的に開放された桃園高校の生徒たちの多くは、連れ立ってマックかモスバーガーで昼食を食べ、そのあと映画を見に行く。行先はJR二条駅近くの「東宝シネマズ二条」か、あるいは繁華街にある「Movix京都」だろう。おそらくはアイドル映画かアクション映画をみんなで見るはずだ。
美月も出町の商店街に比較的新しくできた「出町座」で一緒に見ようと誘ってきた。
「ねぇ、由利。出町座で『サスペリア』見ない?」
「『サスペリア』? 何か聞いたことがあるような・・・?」
由利は首をかしげた。
「そうだよ。1977年に作られた映画だもん」
「それ、どんな映画?」
由利は嫌な予感に襲われて、質問した。
「ん~、オカルトかな? HDリマスター版なんだって。鬼才ダリオ・アルジェントが創造したゴシックホラーの金字塔だよ?」
理屈の好きな美月は、また難しいことを言ってきた。
「却下。無理無理。怖いの、絶対に見ない主義」
「え~、そうなのぉ~。怖いの見るとすっきりしていいのに」
いやいや、と由利は心の中で顔を横に振った。現実世界でもそうとう怖い思いをしているのに、映画まで怖いのはお断り。だがよくしたもので、やはりオカルト好きの友人が美月と一緒に見たいと申し出たらしく、しつこく誘ってこなかった。
三時間目が終了するベルがなるや否や生徒たちは喜び勇んで帰る用意をした。
「美月! 出町座は座席指定できないんだから、早く行くよ!」
「うん、チカちゃん。わかった!」
美月たちはあわてて教室を飛び出していった。
気が付けば教室にはちらほらとしか人が残っていなかった。由利はこのあと予定がなかったので、のんびりと帰り支度していると、これまでほとんど話したことがないクラスメイトがおずおずと近づいて来た。
それは、クラスの女子カーストでは最上位についている河本春奈だった。
「ねぇ、小野さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・?」
華やかな雰囲気があり、きゅんととがったあごと大きな瞳が印象的だった。だが由利にとって普段は、まったくと言っていいほど交わりの無い子だった。上目遣いで挑むようにじっとこちらを見上げて来る。その瞳の中に不穏なものが隠されていることを由利は感じ取った。
「河本さん。うん、聞きたいことって? なあに?」
相手に自分が警戒していることを悟らせないように、少し鈍いふりを装った。
「あの・・・、小野さんってもしかしたら、常磐井君と付き合ってるの?」
春奈は由利の心の内を探るように訊いた。春奈の鋭さに由利は驚いた。
「え、常磐井君? ううん。ないない、そんなの。付き合ってなんか」
由利はとっさに両手を振って、全否定した。
「そうなの?」
それでもどこか疑いを向けた目で、春奈は問い質した。
「うん」
「じゃあ、もしあたしが常磐井君にコクって、付き合うことになったとしても小野さんは別段あたしに文句はないよね?」
「え、うん。あたしと常磐井君とはそういう意味では、何の関係もないし。彼がどんな人と付き合おうが、あたしが文句言える筋合いはないのは確かだけど?」
「ふうん。そうなんだ。それ、本当?」
春奈の目はそれでもどこか警戒の色があった。
「うん。そう。だけどどうして?」
「常磐井君の視線をたどっていくと、たいてい小野さんに突き当たるから。常磐井君、小野さんのことが好きなのかなって」
「常磐井君が実際にあたしをどう思っているかなんて・・・そんなこと、あたしにだって解らないよ。でもあたしは彼のことを何とも思ってないし。河本さんが気にすることないんじゃない?」
実際は何とも思っていないどころか、相当常磐井のことが気になっていたが、春奈の前で自分の本心をさらすわけにはいかなかった。
「じゃあ、あたしがもし常磐井君と付き合うことになったとしても小野さん、邪魔してこないでね」
「もちろん。それはもう」
由利の答えを聞いて春奈は、一応納得したようだ。
「あたし・・・絶対に彼のこと、振り向かせて見せるから!」
春奈は由利に宣言した。しかし由利は心の中で、河本春奈の幼稚な態度にムカっと来ていた。ことばで恋敵から言質を取って牽制しようとしても、なるようにしかならないのが男女の仲だ。だからと言って今の自分は、春奈の恋敵ですらないのだが…。
「あ、うん。河本さん。頑張ってね」
「うん。言いたかったことはそれだけ。じゃね」
由利から逃げ去るように春奈は、バタバタと教室を飛び出して行った。
2019-07-21 00:14
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コメント(6)
ご無沙汰してしまいました。Yuiです。
小説、高校生生活と異界が少しずつ入り混じってますね。
恋愛関係とかも。不思議なことないまぜです。
ああ、そうだ。「どろろ」原作読みました。
やはり名作ですね。この作品に影響うけた漫画や小説は多いと思います。
by Yui (2019-07-25 12:40)
Yuiさま
異界のことなら、結構どれだけでもうそっぱちでいいとは思うのですが結構、高校生を書くのはハードル高かったです。
うちの娘なんか「こんな高校生いるかい!」ってめちゃくちゃ文句つけられたのですが、でも高校生といっても幅があるから、一応、進学校へいっている子たちだからということで、納得してください。
「どろろ」読まれたのですね!
すごいでしょ?今から50年前ですよ?
手塚治虫って、そりゃあ、今の漫画から比べれば、素朴なのかもしれませんが、当時これだけの才能が突如としてあらわれ、それを子供のときに享受できたっていうのが本当に素晴らしいことだと思っています。
by sadafusa (2019-07-25 18:44)
たしかにこの高校生は良い子すぎるかもしれないですー。真面目だし。今の10代は情報がありすぎて、変なことに悩んでますよ。背が高いこととか、それほどでもないのにコミュニケーション不足の発達障害じゃないかとか。大らかさに欠けるなあと思う。ネット社会に浸かり過ぎ。私はおじいちゃんと由利ちゃん、お母さんの関係が気になります。お父さんのことを隠して高校生まで育てるって結構難しいのでは。シングルマザーだと親身になって子どもを見てくれる世話好きな人が必要だし、その人に何も言わず育ててもらうのも難しいと思います。
「どろろ」本当に稀有な作品ですね。全ての感覚を失って生まれたという百鬼丸の設定が凄いです。やっぱり医師なのに漫画家になったというのが強いのですね。ブラックジャックも好きでしたが、生物界には思いもよらないような生命が存在するのが凄いことです。
by Yui (2019-07-26 09:04)
Yuiさま
うちの娘は「高校生のくせに妙に頭が良すぎる!」といって怒っていました。そりゃあ、あんたは高校生のとき「ナツイチ」ってカタカナを「ナツイモ」って平気で読んでた人だもんね…(娘)
しかし、そんなアホじゃ、話は回っていかないからいいの!
ってケンカしてましたけど…。
文章にはあえてしませんでしが、由利は母親が暴漢に乱暴されてできた子じゃんじゃないか? って一番それを恐れているんですよ、実は。あんまり怖いから、美月にもそれは言っていませんが。
だから、イマイチ自分に自信がないし、男の人に向かう気持ちにもストッパーがかかっていますかねぇ。
うちの娘が一番大好きな漫画は「ブラック・ジャック」なんだそうです。それの彼女がだいぶ前だけど、テレビアニメのブラックジャックを見ていて、急に激怒し始めて。
どうしたんだ、と思ったら、
「こんなの、ブラックジャックじゃな~い!!!」
テレビのブラックジャックは、海の側のこじゃれたおうち、ステキなインテリアに囲まれて、ヴァイオかなんかのパソコンを使った、妙に洗練されたステキなオジサマになっていました。
「なんだ、こりゃぁ? こんの毒のないただいのいいひとに成り下がって!
もっと、暗くて、もっと、後ろめたくて、もっとニヒルで、どっか手負いの獣みたいな感じじゃないと、ブラックジャックじゃないわ~!!!」って画面に向かって叫んでいました。
ところで…。
今、わたくし、『アウトランダー』にドはまりしています!
主役の二人はまさに、オスカルとアンドレですよ!
もう、男の人、ハンサムで背が高くって、191センチ。
女性のほうも背が高くって、177センチ。
金髪じゃなくて、ブルネットですが、もうすんごい美形。クールビューティです。
偶然ですが、これもタイムスリップの話で、主人公のクレアは第二次世界大戦では従軍看護婦を務め、大学教授であり歴史学者のハンサムな夫を持つ、人妻なのですが、200年前の世界にタイムスリップし、スコットランド独立のために戦う戦士、ジェイミーと恋をしてしまうのです!
もう、ふたりがひたすら美しいので、うへぇ~とよだれたらしながら見ております。
これまで、キルト姿の男性ってアホみたいだとバカにしていましたが、このドラマをみて、180度考え方が変わりました。
本当にかっこいい人が、かっこいい着付けをしてキルトを着ると、これほどかっこいいものはない、ということです。
by sadafusa (2019-07-26 16:59)
>暴漢に襲われてできた
だったらなおさらフランスで育てた方がいいかも。カトリックの国なら産むのに肯定だし、生まれた子に罪はないから。日本って中絶大国ですからね。その状態で産むのは皆に止められると思う。
>ブラックジャックの毒
ああ、私も気になります。無資格の医者なのにというのはずっと残るしね。前にCMででた、ドロンジョ様との婚活シーンも面白いとは思うけど、違和感あったなー。
>アウトランダー
面白そうですねえ。ずっとドラマを観れるなんていいなあ。
昨日、試験問題を提出してしまったので、少し時間ができて、息子のNintendoSwitchでベルばら学園を2時間ほどやりました。やっとアランの登場かな。シナリオはよくできているそうなので、ゆっくりやれればありがたいけど、その時間があるかどうか。
それでも今は息子が一人でプログラミング教室に行って帰って来れるようになったのでこうして書き込みする時間があります。
何事も成長ですね。
by Yui (2019-07-27 11:13)
Yuiさま
>暴漢に襲われてできた
まぁ、どんなふうになるか、そのプロセスを楽しんでください!
by sadafusa (2019-07-28 00:06)