境界の旅人 27 [境界の旅人]

第七章 前世



「お放しください、中将どの。あなたさまは宮中をお守りする武人ではございませんか! 今ご自分がなさっていることが、どういうことかお分かりですか? このようなけしからぬことをなさるなどと・・・。 人を呼びますよ!」
「いいえ、放しません。わたしがどんなにあなたに想い焦がれていたか、このたぎるような思いを知っていただくまでは・・・」

 中将は女性の黒髪をつかむという乱暴なことをやめ、今度は姫の細い肩を抱き寄せると、姫の細い身体をすっぽりと両腕に包んで抱きしめた。

「初めてお見掛けしたときから、あなたに憧れ続けてきたのです。このようなむくつけき大男がまた、なにをかいわんやと思召されているのでしょう? でもあなたさまを忘れることができないのです! たとえあなたが主上のものであったとしても!」

 恐怖を感じるその一方で、中将のたくましい腕の中で身をも焦がすような熱いことばに酔いしれて、姫は陶然としていた。身体の奥からぞくぞくするような甘美な疼きが、泉のようにあふれ出しくる。

「中将どの、後生でございます、その手をお放しくださりませ」

 姫の抵抗も虚しく、中将は相手の朱に染まったこめかみからおとがいにかけて、情熱的に唇をなんどもさ迷わせたあと、蜂がようやく花芯へとたどり着くように、自分の唇を相手に押し当てた。その瞬間、橘姫は帝の妃という立場も何もかもすべてを忘れて、自分の身体を相手に委ねていた。

「あなたがわたしの目の前で扇を落とされたとき・・・、神仏は我が願いを聞き届けてくださったと思いました・・・。お慕いしているのです、橘の君。こんなにも自分をおさえられなくなるほど・・・」

 長い抱擁のあと中将は、姫に上ずった声でささやいた。
姫には直観的に自分の求めていたものに出会えたという確信があった。それはなんという歓喜に包まれた瞬間だったろう。だがかろうじて今はまだ、理性が本能より勝っていた。





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おかもん

はー、ドキドキしながらイッキ読みしてしまいました。これからまたゆっくり読み返して、ふたりの関係がどうなるのかあれこれ想像したいです〜しかし! じぃちゃんがキスのことを知ったらどーなるのか、素知らぬ顔をして「ただいま〜!」とやり過ごせるのか、そこも気になります。 じぃちゃんの出番を待っています(笑)
今回もありがとうございました(*´ω`*)
by おかもん (2019-10-20 11:11) 

sadafusa

そうでしょう!
おじいちゃんはものすごくまじめな年寄りですのですし、
孫の由利を溺愛しています。
そういう若者の赤裸々な現場を知ったら、
ものすごく常盤井のこと、毛嫌いすると思いませんか?

来週はそこらへんをじっくりと書いておりますので、
楽しみにしていてくださいね!!(笑)

どうなる、常盤井?
どうなる、どうする? 由利?
どうする、じーちゃん???


by sadafusa (2019-10-20 12:49) 

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