『逆境力』 パトリック・ハーラン [読書・映画感想]

私は、普段、目的なしにほとんどテレビを見ません。
ワイドショーなんてここ30年ぐらいみたことがありません。
要するに、嫌いなのね。
芸能人がどーした、こーした、そんなことは全く興味がない。


ただ、平日は投資の勉強のために去年の2月ぐらいから『モーニング・サテライト』を
視聴するようになりました。

で、毎週金曜日の終盤ごろになると「パックンの目」っていうコーナーがあるんですよ。
そこで初めてパックンことパトリック・ハーランさんを知りました。

で、テロップっていうのかな、彼が画面に登場すると
「パックン ハーバード大卒、投資歴20年」って書かれてあるんですね。
で、パックンってすごくすらりと背も高いし、いかにもアメリカのエリートってかんじの
爽やかな容貌だし、スーツの着こなしもいかにも、投資顧問会社のアナリスト然としているので、
「わ~、この人、代々親もハーバード卒で、
 きっと幼稚園から超お金持ちの有名私立かなんかで育って、
 高校はフィリップスみたいなところで勉学にいそしんだんだろーなー」
って、思いながら見ていたんですね。

それにしては、言うことが洒落ていて、いわゆる寒い親父ギャグとは無縁の人なんですよね。

 

で、パックンって実は「パックン・マックン」というコンビを組んだ芸人さんだとは、知りませんでした。

へ~!ですよ。

それでそのつい先の金曜日にお金持ちのお坊ちゃまだと思っていたパックンは
番組の中で
「実はですね、ボクって母子家庭で育って、いわゆる貧困家庭に育ったんデスヨ。
 で、大きくなるまでずっと脱脂粉乳しか飲めなかったくらい貧しかったんです」
っておっしゃったんです。

すごくびっくりしました。そして「この本を上梓したので、抽選で◯名さまのプレゼントしま~す」
みたいなことをおっしゃる。

私はすぐに読みたかったので、番組が終わったら即、アマゾンでポチリました。



逆境力 貧乏で劣等感の塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由 (SB新書)

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で、もうページ繰るのももどかしく(あ、電子書籍だから本当はページなんか繰らないんだけどね)
一気に読みました。

パックンはコロラドのど田舎で育ったんです。
お父さんが軍人だったのですが、
非常に責任の重い任務についていて
お母さんはお父さんの持って帰ってくる重たい雰囲気に耐えられなくなって
パックンが7歳の頃、ついに離婚されたそうです。

パックンにはお姉さんがいて、
当時お母さんがふたりとも引き取ったので、
お父さんからそれなりの養育費をもらっていたのですが、
パックンが11歳のとき、お父さんがお姉さんも自分の元に引き取ってからは
養育費は一切送られてこなくなったそうです。

結果的にはお母さんが小学校教諭の資格をとり、
それからはかなり状況が好転したとはいえ、
その最悪の状態が、パックンが17歳になるまで続いたそうです。

本を読みながら、テレビに映っているパックンは
非常に快活で幸せそうなのに、実はこんなにこんなに苦労していたんだね、
ってびっくりしました。

例えば、貧乏すぎて、鉛筆が買えなかったので、
たいてい、学校でどこかに落ちているものを拾って使っていたとか。

お腹いっぱい食べることすらできなかったとか。

貧乏すぎて、アメリカの高校生にとって一番華やかな行事であるプロムに
女の子を誘えなかったとか。

お金のかかる部活である、力のある男のコなら絶対に入部したい
アメフト部に入部できなかったとか。

私も経験があるからわかるんだけど、
みんなが楽しそうにしているのに、自分がお金がないからできないで
じっと我慢している状態っていうのが一番辛いんだよね。

これが、貧しいアフリカの国で、村中がみんな貧しくて裸足でしたっていうのは
さほど辛いわけじゃないと思うんだよね。


とにかく、パックンはお母さんを喜ばせることなら、なんでもやったと書かれていました。
なぜなら、お母さんは保険の外交員をやっていて、それも本当にほそぼそとしたお給料しかもらえなくて、「明日はどうやって生きよう、何を食べられるだろう」って思って、夜中にひとりで泣いていたのを知っていたから。

それでパックンも中高生のころは、家計を助けるために
新聞配達をしたそうです。

朝の三時に起きて、三時間配達をして、六時半に学校について、
学校が始まる前まで寝ていたとか。

それでも、高校は主席で卒業し、教会のグリークラブの参加し、
ビーチバレー部に所属して、ばりばり部活に勤しんでいるんですよね。

すごいことです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

なんかこの自伝、読んでいると落合信彦さんとか、
姜尚中さんなんかを思い出すんですよ。






アメリカよ! あめりかよ! (集英社文庫)

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  • 作者: 落合 信彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1991/06/20
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母 ―オモニ― (集英社文庫)

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  • 作者: 姜 尚中
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/03/19
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なんでかって言うと、落合さんも姜さんも、育った環境ってめっちゃくちゃ劣悪だったんだけど、
三人とも、めちゃくちゃ頭脳明晰でかつスポーツもでき、オールラウンドプレイヤーなんだよね。
しかも、みんな容貌もよく、人に好かれるっていうか、「この子になら!」と思わせるカリスマ性があるんだよね~。


だから、非常に苦労はされただろうけど、
こういう人はいずれ、世に出る傑物だから、それはそれでいいと思う。


ただ、ここからが問題。
世の中、そうそう、彼らみたいに才能や容貌に恵まれている人はいないんです。

いまや、日本の貧困家庭は7人に1人。
しかも、日本の場合はその貧困ってものが、一見しただけではわからない。
なぜかといえば、お金持ちも貧乏人もファストファッションで身を包んでいるし、
また、みんなそれなりにスマホを持っている。

昔みたいに『巨人の星』の星飛雄馬みたいにツギのあたった洋服を着て、
いかにも貧乏って人っていないもの。

で、そこがまた問題を複雑にしているんですよねぇ。

で、話は元へ戻す。

貧困家庭とされるボーダーラインは122万円だそうですよ。
そこから導き出された日本の相対的貧困率は15%。
さらに子供の貧困率は14%ということです。
つまり、1クラス35人だとすれば、そのクラスの中には5人は貧困家庭の子供がいるってことです。
貧困線スレスレの家の月収は約10万。
家賃、水道光熱費、食費を賄えば
あとはほとんど残っていませんよね。

こんな家の子は1万、2万というレベルではなく、1000円、2000円にも困っているのです。
こんな家は「塾に通わせられるお金がない」どころではなく「昼食代がない」のですよね。

お金がない家の子供は、親は働きづめに働くから、ほとんど鍵っ子。
親子の会話がないから、語彙力は伸びない。
そしてギリギリの生活をしているから、
普通の家庭に育っている子供なら当然の思考力が育たない。

ピザやホールケーキを切って分けたこともないから、ケーキを三分割することすらできない。
これはこの本に詳しいです。


ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

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  • 作者: 宮口 幸治
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こういった子供は、自分の心の中に湧いた感情を言語化すらできないから、
自分がどう困っていて、どう助けを求めていていいかわからない。

それで、だいたい小学校の中学年の終わりぐらいになると
先生の言っていることが全くわからなくなり、
孤立して学校がつまらなくなり、似たような環境の子とつるみ、
ドロップアウトしてしまうんですねぇ。

ですから、このパックンの本の後半は、現在の日本の貧困家庭の実態、
そしてそういう子供を救うために活動しておられるNPO法人など紹介し、
取材されています。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この本で非常に慧眼だなと思ったのは、
貧困家庭や施設で育った子供にも、進学のチャンスを与えようとしている
取り組みを紹介しているところです。

たとえば施設で育った子は、たとえどんなに優秀でも
「施設育ちだから」ということで
進学の道が閉ざされてしまうということです。

それでも自分の力で進学しようとすると、とてつもない借金地獄に見舞われる。
しかし、中にはチェコの大学を卒業している子もいます。
なぜなら、チェコは日本より物価が安く、授業料は年間12万ほどで済むため、
日本で教育を受けるよりも安くすむからですね。

あと、企業の中には優秀な人材でも、そういった貧困家庭出身ゆえに
背負った学資ローンを肩代わりし、その後、無利子でゆっくりと返済していくシステムがあるところも
あるそうです。

日本って「おまえは貧乏な家に生まれたんだ、分相応に世の中の最底辺の仕事をすればいい」
と平気でいう、無神経なところがあると思います。

でも、こういった団体はまず、「あなたはなにをしたいの?」と子供に尋ねることからするそうです。
自分には未来なんかない、と思い込んでいた子は初めて、自分は何が好きで、どういうことに興味があるんだろうって考えるそうです。

少しずつですが、世の中、いい方向へ向かっていくようになったらいいですね。

私も自分の力だけでなく、周囲の方々のいろいろな温情で、無事子供を成人にすることができました。
これからは、少しずつ、その感謝の気持ちを何かの形で恩返ししたいなと思っているところです。


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ぼんぼちぼちぼち

あっしは逆に、パックンマックンのパックンしか知らなかったので、今、拝読して「へー、このかた、今は投資家になられてるんだー」と、ちょっと驚いた次第でやす。
それにしても、仰るとおり、みんなが貧しい中での貧しさではなく、豊かな人達の中での極貧を体験されたって、ものすごいご苦労でやすよね。
それでいながら、やさぐれずに、人生で人より抜きん出たなんて、尊敬でやす!すごいハングリー精神!
あっしは貧乏は体験したことがないので、鉛筆が買えずに拾ったとか、明日食べる物にも困ったとか、ほんとうにそういう家庭ってあるんだなあと、溜息がでやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2021-02-24 21:42) 

sadafusa

ぼんぼちさん

そ~なんですよ。最近のテレビってどういうのかな、早く結論を言ってくれなくて、CM挟んで伸ばしに伸ばし、最後に「な~んだ、そんなことか、早く言え!」みたいにイライラしてしまうんですよね。
要するにイラチ(関西でいうところの短気な人)なんですね。

今、You Tubeでパックンがマックンと漫才やっているところを見ました。ほんとだ~、芸人だ~。

いやね、彼は小さいときから苦労しているので、お金のありがたみってイヤっていうくらいわかっていると思うんですね。大学出たあとも奨学金返済でものすごく苦労したって書いてあったので、おそらく返済が終わってから少しずつ、投資信託かなんかでお金を財テクをしていったんじゃないですかね。

で、投資家という側面はあるとは思うけど、今でも歴とした芸人さんです。

で、彼はモーサテで自分のコーナーを週イチで持っているんだけど、それは投資に関する分析じゃなくて、アメリカの政治・経済活動に付随するいろんなトピックを解説しているんですね。

最近、面白かったのは、アメリカ大統領線における、共和党の人と民主党の人の見分け方とか。
共和党は保守的なので、頭は7・3分けにして、ハーレーに乗っている。総じて律儀な人が多いのに対して、民主党の人はゲイだったり白人じゃないマイノリティだったり、ファッショナブルな人が多い。彼はら常に前向き、とか。大統領選におけるトランプとバイデンのスピーチ合戦の楽しみ方とか。

アメリカ人じゃなきゃ絶対にわからないようなトピックをおもしろおかしく説明してくれて、とてもおもしろいんですよ。だから毎週金曜日は楽しみ。

まぁ、パックンは貧困家庭で育ったとしても、当時通っていたコロラドの小中高の時の友達のたくさんのお母さんたちから、家の鍵をもらって、「たとえ、家の人間が全員外に出払っていても、パトリックは自由に家に入って、冷蔵庫にあるものを食べて、シャワーを使って、ソファで寝ていてもいいからね」って言われて、そういうところが幸せですね。
彼は貧しかったかもしれないけど、機能不全家庭に育ったわけじゃないから。

まぁ、世の中、いろいろな苦しみがありますね。
ぼんぼちさんも非常に苦労なさっていたと思いますよ。
by sadafusa (2021-02-25 12:34) 

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