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未来は過去を変えられる 『マチネの終わりに』平野啓一郎  [読書・映画感想]

みなさま、こんにちは、sadafusaです。

もたもたしているうちに一月ももう、半分過ぎようとしていますね。
みなさま、お元気でいらっしゃいますか?

去年もコロナ一色でしたね。
デルタ株が収まったら、今度はオミクロン株ですか?

もう政府も世間も疲れ果てていますよね。
しっかりワクチン打ったのに、また、コロナは蔓延していますもん。

収まるのを待っていたら、人生が終わってしまいます。
また、密を避けてひとりで仕事していると、必然的に言葉数が減りますね。
人間、一日にある程度しゃべらなくなるとウツになるようです。

やはり、人と人との交わりは大事かなと痛感しますね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、いろいろとやらなければならないことはたくさんあるのですが、
あんまり気がめいっていたので、大好きな小説の世界にふけろうと思い、
年末、年始にかけては好きな作家さんの本を何冊か読みました。

今日は、特に印象的だった小説、『マチネの終わりに』をご紹介しようかなと思います。

平野家一郎さんって、昔からすごく好きな作家さんです。
作家さんってたいてい博学なもんですが、この方はなんか特別ですね。
「なんでそんなことまで知ってるの?」って思いますわ。

それでもって、いろんな文体でいろんなジャンルの物語が書けるという
稀有な存在でもあります。
そういう意味では、ちょっと日系の英国作家のカズオ・イシグロにも似てるかもしれないですね。

で、たいてい作家さんは文章巧いのは当たり前とは思うのですが、
いつもへぇ~っと思うような単語をさらりと使われますよね。
「醇化」なんんて言葉、私、この小説を読んで初めて知りましたわ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、この小説のテーマはおそらくですが、
「過去おこったできたごとは、現在あるいは今起こったことで、それまで認識していた意味が変わる」ということでしょうかね。


最初、この小説のヒロイン・洋子の祖母が、洋子が子供のころおままごとをしていた石に躓いて、転んで死んでしまう。

すると洋子が
「これまでこの石は子供の頃の幸せの象徴のような意味を持っていたけれど、
祖母がこの石のせいで死んだから、これまでと同じ気持ちで見ることはできない」
っていうんですよね。

だって、その石が原因で祖母が死んだという新たな事実が植え付けられたなら、
これまではその石は幸せの象徴であったにせよ、それが書き換えられて、悲しみが喚起させられてしまうじゃないですか。


まぁ、過去は未来によって変わるというのは、そういった意味なんだろうと思います。



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あらすじは熟年の男女の恋の話なんですね。

男は天才ギタリスト、女のほうは雅子皇后陛下のような才色兼備。
天才ギタリストは世間を探せば、結構それなりにいるような気がしますが、
こんなふうに雅子さまのような女性はそうそういないんじゃないか?とちょっと思いました。

幼少は母親の故郷である長崎で過ごすのですが、その後、母親はスイス人と再婚し、洋子は全寮制の学校へ入ります。結果的に彼女は日本語、英語、フランス語を自由自在に話すことができ、今はフランスでジャーナリストをしていました。


ヒロイン洋子は、ハーフなんです。
父親はユーゴスラヴィア人の世界的に有名な監督なんですよ。
何十年たってもその作品を語り継がれるような、、、日本の黒沢監督とか小津安二郎監督みたいな感じなのかな。

しかし、彼女の両親は彼女が幼少の時、離婚してウィキを読んでも、洋子と母親のことはなかったことになって削除されている。。。
洋子はいい大人なので、父親とはいい距離感でつきあっていますが、未だに父親がなぜ自分と母親を捨てたのかは訊けないでいました。



で、まぁ、そういう芸術家の娘でものすごく教養のある洋子には、天才ギタリストの孤独が解るんですよ。凡人には到底理解できない、言葉にもすることもできないような繊細な感覚を共感することができるのです。

天才ギタリストである蒔野(まきの)は、聡明で美しい洋子に一目ぼれしてしまうんですね。
洋子も実は、婚約者がいて近々結婚する予定だったのですが、蒔野を愛してしまうのです。

ふっ、なんかこう言ってしまうとめっちゃ陳腐なメロドラマに感じるだろうけど、それは私の
筆力がないせいなので、本当はもっと複雑で繊細です。

で、洋子はフィアンセとの婚約を破棄して蒔野と結婚する決心をするのですが、
そこには悲しい運命が待っていて…

ここから先は原作なり、映画なりをご覧になってお楽しみください。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うちの夫は乙女男子なので、蒔野が洋子に言った愛の告白のことば、
「洋子さんが死んだら、僕も死ぬ。もし、洋子さんが自殺したら、ぼくも自殺する。
なかったことになんかできない、だって僕たちは出会ってしまったんだから」

って箇所をいたくお気に召していたようですが、そんな気恥しいセリフ、実際言われたら
女のほうは困惑するだけですよね。
いうことが許されるのは蒔野に扮していた超絶イケメンの福山雅治さんだけです。笑


それよりもですね、私がものすごく心動かされたのは、
物語の終盤、恋に敗れて人生にも失敗して、ボロボロに傷ついた洋子が
カリフォルニアに住んでいる父親に会いに行くシーンです。
そのとき、はじめて洋子は、なぜ父親に自分たち親子を捨てたのかそのわけを聞くのです。

実はその映画のせいで、政情不安なユーゴスラヴィア人だった父親は
右翼にも左翼にも命を付け狙われていたのです。

愛する妻と娘を守るために、父親は一番つらい選択をしました。
それは、妻と娘と別れ、彼らを日本に返すことでした。

母親は洋子を死の恐怖に怯えさせながら、幼少期を過ごさせたくはなかったのですね。
ですが娘にとっては母親としてベストなチョイスだったのかもしれませんが、
夫にとってはこれ以上ない冷たい妻だったと、洋子の母親は自分を責めながら生きていきました。

けれど、誤解が解けて、両親の深い思慮のうちに自分が幸せに育ったことを知り、
二親のそれぞれの自己犠牲を知って、号泣するのです。


ふたりの会話に心を揺さぶられます。

「大事なのは、お前たちを愛していたということだった。理解しがたいだろうが、
愛していたからこそ、関係を断ったんだ。そして、お前はこんなに立派に育ち、
お母さんも平穏に暮らしている。おそらく間違ってなかったんだろう」

父親が言うと、洋子はこう返します。
「でも、お父さんと一緒に暮らせなかった」

しかし父親はこう静かに断言するのですね。
「だから、今よ、間違っていなかったって言えるのは。……今、この瞬間。
私の過去を変えてくれた今。……」


映画では父親のやりとりの箇所は時間の関係でカットされていましたが、
私はこの箇所がこの小説のキモなんじゃないかなって思いました。


一見残酷に見えるようなことでも、動機が大事なのです。

そんなことを考えさせてくれる貴重な一冊でした。









マチネの終わりに(文庫版) (コルク)

マチネの終わりに(文庫版) (コルク)

  • 作者: 平野啓一郎
  • 出版社/メーカー: コルク
  • 発売日: 2019/06/06
  • メディア: Kindle版



マチネの終わりに DVD通常版(DVD1枚組)

マチネの終わりに DVD通常版(DVD1枚組)

  • 出版社/メーカー: アミューズソフト
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: DVD



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三人三様の真実 『最後の決闘裁判』 [読書・映画感想]

みなさん、こんにちは。sadafusaです。


本当にお久しぶりです。

さて!ですね。今回は前振りなしです!

今日はマット・デイモン主演、リドリー・スコット監督の
『最後の決闘』をロードショウにて鑑賞して参りました。

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ただですね、


この映画をこれから劇場で見たい人、経過や結末が知りたくない人は注意が必要です。 ネタばれがあります。 何事も自己責任でお願いします

では、あらすじに参りましょう。

舞台は14世紀の後半、フランスはノルマンディ。
この頃のフランスというのは、ぐちゃぐちゃの時代でして、
フランスという国もですね、今のようにきちんとまとまった国では、ありませんでした。

南フランスで人気のプロヴァンスも別の国。ブルゴーニュ公国も別の国。
あまつさえ、ちょっと前にフランス王の家臣であるノルマンディ公がイギリスの国王に収まってしまうという、ハチャメチャな時代でした。


このころの日本はと考えてみますと、時代は室町時代に移っているわけですね。
まぁ、建武の新政をしようとした、後醍醐天皇が隠岐の島へ島流しにあったりすることを考えると
世界ってこういう野蛮な時代だったのかなぁ~っていう気がします。



簡単な俯瞰的概要はこれくらいにして、要はどういう事件だったかということですね。

この話には、主要な三人の人物がいます。

ひとりはジャン・ド・カルージュ。
ノルマンディの地主ですね。身分はエクスワイア(准騎士)
これはマット・デイモンが演じていました。



もうひとりは、ジャック・ル・グリ

この人もエクスワイアなのかな。
しかし彼は次男でしたので、
家督は継げず、そのため聖職者になる道を一旦は志はしたのです。
が、性に合わずノルマンディの一番の権力者であるアランソン伯爵ピエール二世の家来となるのです。

で、一言添えると彼は聖職者を志しただけあって、
彼は教養があってラテン語も読め、
そして何といっても超絶イケメンだったのです。
実際この役を演じたアダム・ドライバーは身長が190センチほどもあり、
かつ、どこか往年のキアヌ・リーヴスを彷彿とさせるところがありますね。




三人目の人物は
カルージュの妻、マルグリット


マルグリットはですね、金髪の大変な美女で、英語のフェア・レディということばは
こういう人のことを言うんだろうなって実感しました。
しかも彼女は歴とした貴族の娘なんです。
ですから、貴族の娘らしく、きちんと教養もあります。

ですが、悲しいかな、彼女は貴族の娘でも没落した貴族の娘なんですよ。
だから十分な持参金がないため、
こんな無教養で身分も貴族とも言えないカルージュのところへ嫁がなくてはならない。


ところが事件が起こるべくして起こった。
なんとカルージュがパリへ行って不在の中、
ひとり屋敷の留守を守るマルグリットの中にル・グリがやってきて、
嫌がるマルグリットを無理やり強姦してしまうのです。

ル・グリによって屈辱を与えられた彼女は、夫であるカルージュに、
ル・グリに強姦されたことを正直に告白します。

義憤に駆られたカルージュは正義を知らしめすため、
賄賂や汚職でまみれた自分の直属の主であるピエール伯爵に告訴するのではなく、
パリに赴いて王に自分の妻が友人によって恥辱を与えられ旨を訴えるのです。

しかしながら、事件が起こった時にはマルグリットの姑がわざと、
家の使用人を全部ひきつれて外出してしまったので、
現場を知るものがいないのです。


マルグリットの無実を知るものは、神のほかはいないのです。

で、ですね、そこで決闘裁判ですよ。

神は真実を知っておられる。
だから正しいものの味方です。
神は常に正しい者を守護します。反対に偽証したものは
死の鉄槌を与えられるのです。

ま、なんていうのかな、日本の「くがたち」と一緒だよね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

で、この物語はですね、
三部構成なんだよね。

三人の視点で同じ話が語られるわけ。
しかし、そこにはかなりの齟齬があるんだよね。

もちろん、ル・グリだってバカじゃないです。
自分が罪を犯したと思って、自分の名誉と命を懸けて戦うわけないじゃないですか。
彼にだってそれなりに言い分があるんですよ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カルージュ視点では、カルージュ本人は常に正義の人です。
神を重んじ、筋の通らない曲がったことは嫌います。

だから、つねに退廃的なアランソン伯爵に追従している、
ル・グリのことを軽薄な卑劣漢だと軽蔑していますね。

今回の美女の誉高い自分の妻を強姦したのだって、いかにもル・グリのやりそうなことだと
カルージュは憤り、彼は決闘裁判へと持ち込むのですよ。



ところが、こんどはル・グル視点で物事を見ることになります。
そうなると、世の中の景色がまたガラリと変わる。
ル・グリは親がエクスワイアであったとしても次男ですので、自分の財産がありません。
ですから、己の才覚ひとつで世の中を渡っていかなきゃならないのです。

ですから、字も読めず、親の残した既得権益にしがみついているカルージュに対して
覇気のないヤツ、と心底バカにしています。

またカルージュの美人妻のマルグリットに対しては、犯行に及ぶまえ少しだけ
ラテン語を交えて当時はやっていたロマンスに対する文学談義(という大したもんじゃないですけど)
をして、「あ、この女は俺サマに気があるな」という大いなる誤解をしてしまうのです。

なんなんでしょうね、この変な自信。


で、どこからかカルージュの不在を聞きつけて、
ひとりで留守を守るマルグリットを騙して門を開けさせ、
嫌がるマルグリットを力づくで犯すんですよ。

それでもマルグリットは「お願い、お願いです。どうぞ赦してください。それは罪です」
って言ってるのにさ、「あ、こいつ、俺に感じているな」とか
また一方的に自分の都合のいいように解釈して、
ふたりで歓びを分かち合ったと、ものすごい勘違いをして
意気揚々と帰っていくんですよ。

いやぁ、この人、自分が美しい貴婦人と秘密裏に不義を共有した
ランスロットとかトリスタンになったつもりだったのでしょうか???
めっちゃおめでたい人です。



三人目が、被害者のマルグリットの視点です。

これがねぇ、本当に辛辣極まりない、真実だと思いますね。

夫のカルージュは、これからまさに結婚式をしますって段になっても、
持参金として持ってくる土地がついてない!とかいって激怒するんですよ。
花嫁を前にして。

で、初夜の晩ですが、
カルージュの記憶ではまだ男というものを知らない妻のために
大変に気を使って、デリケートに、そして優しく
その夜を過ごしたということになっているのですが、
妻側の真実は違います。

怖がる本人をいきなり押し倒して、花嫁の気持ちは無視して
自分だけやることをやって終わったらさっさと寝てしまうんですね。
これって強姦と何にも変わらないじゃんよと思うのね。

で、妻のマルグリットは夫は男として女に全然優しいところもないし、
ものすごい粗野でしかも目先の欲にばかり囚われて、
深謀遠慮ってことができない人なんだってことが早晩わかってきて、
新婚にしてすでに結婚生活なんか破綻しているんですよ。

ただ、当時というのは妻は独立した人権なんかなくて、
あくまでも夫の庇護の中にあり、隷属物だという認識でしたから、
相変わらず、一方的にマルグリットは夫の性欲のはけ口にはされていましたが…。

しかしあるときマルグリットは
アランソン公が主催するなにかの集まりに夫と一緒に出掛けました。
こういうとき、使えるものは何でも自慢するのが人間のサガ。

マルグリットがめちゃくちゃ美人ということだけは本当だったので、
このときとばかり、集まる男どもに見せつけるため、
美しいドレスを新調させ、美しい金髪も真珠のピンをあしらいながら
きれいに結ってその場に臨むのです。


おお、と男たちのどよめきは止まりません。
カルージュはいい気になって、ル・グリにも挨拶させました。

その後、マルグリットはル・グリとラテン語を交えて、二言三言、会話はしました。

でも、マルグリットは
「この人はそれなりに教養はありそうだけど、なんか嫌味な人だな」
ぐらいにしか思ってなかったんですね。

しかもル・グリにはいろいろとつきまとう女の様々な噂がありましたので、
賢明なマルグリットはそのことも警戒していたのです。


ああ、それなのに、それなのに!


マルグリットはそれでも正直に自分の身に起こった不幸を
夫に話しました。何も自分にやましさがなかったからこそ、
秘密にしなかったのです。わかる、この心理?

するとカルージュって「お前が誘ったんじゃないだろうな?」って
ものすごい力でマルグリットの首を絞めにかかるのです。

ひどくない? 
本当にひどい。
嫉妬心だけは人一倍なくせに、自分の妻のことなんか
これっぽっちも信用なんかしてないんですよ。
愛してなんかいないんです。


マルグリットはですね、夫に共感してほしかったんですよ、単に。
「こういう恐ろしい男だから、もうあの人に私を近づかせないで」って。
そして、どういうわけか長らく恵まれなかった子宝が、恵まれてしまう。


昔だし、腹の中の子がどっちの男の胤なんかはわからないですよ。

しかし、とどまることなく激昂してしまった夫は
行くところまでいかないことには、収まらないんです。

それで自分の名誉と命を懸けた「決闘裁判」でお互いの是非を決めることになったのです。
で、当時の教会法は告白した妻のほうも、もし夫が負けることがあったなら、
自分も偽証したことになり、身ぐるみぜんぐはがされ、
公衆の面前にて火刑にされることになるのですよ。


元気な男の子を産んだマルグリットは悔しくて悲しくてなりません。
「この子は下手したら、不名誉な両親の死を背負ったまま、
ひとりで生きていかなければならないのよ。

どうしてもうちょっと自分を抑えることができなかったの?」


初めて辛辣に夫を責めますね。



しかしすでに賽はふられたんですよ。

パリのとある修道院の裏庭に決闘場を作り、カルージュとル・グリは死闘を繰り広げます。
ここらへんはさすが、リドリー・スコットだなぁ、めっちゃ迫力のあるシーンですよ。
存分にその映像美を堪能してくださいまし。


結局のところ、辛くもカルージュが勝つんですよね。
マルグリットの正義は神によって証明されたんですよね。


民衆に祝福されて凱旋するカルージュ夫妻…ところで終わるんですが、

しかし最後のテロップが効いていた。

「その後すぐにカルージュは十字軍に参戦して二度とフランスの地に帰ることはなかった。
 が、マルグリットはその後誰とも再婚することなく、裕福なまま幸せな生涯を送った」


皮肉が効いていますね。
人の心を読むのが格段にうまく、農地経営も合理的にできるマルグリットは
無能な夫よりもはるかに蓄財能力があったということです。

夫の子供か、ル・グリの子かはわかりませんが、それでも息子は自分の子には違いありませんから
ふたりで楽しく生きていったんでしょう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

このようにですね、人間とは
同じものを見たとしても、すでに心にはバイアスがかかっていたり、
また自分自身を過剰評価したりして、すぐに自分を正当化したりするもんなんですよね。


人間は「自分はもしかして間違っているかもしれない」ってことを
前提に生きていくことができれば、
少なくともこういう間違いはぐっと少なくなるかもしれないです。

しかしそれを認めてしまうと、人は案外生きにくいものかもしれず…。

なかなか難しい問題だなぁと視聴後は深いため息が出ました。


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さらに話を詳しく知りたい方は、原作もあります。
私も今、読書中です。










最後の決闘裁判 (ハヤカワ文庫NF)


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美女は死んで女神となる『パドマーワト 女神の誕生』 [読書・映画感想]

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みなさま、こんにちは~。sadafusaです。

この前の『天平の甍』から一ヶ月以上経ってしまいました、気がつけば…。
まあさ、いろいろあったんだよね。

で、ですね。そういうときって、没頭することが一番だろうって
創作することにしたんですよ。

でね、5月に奈良の当麻寺に行ってきたんです。
まぁ、当麻寺って言ってもピンとこない人も多いだろうけど、
ほら、バスクリンと漢方薬で有名なツムラってあるじゃない?
あれってお姫様のマークじゃない?

あれが当麻寺と縁の深い「中将姫」なの。

でまぁ、私って物好きだから、そこで中将姫物語ってお寺の縁起絵巻を元にした本っていうのを買って読んでみたのよ。そしたらさ、なんちゅうか、現代人には理解できない「美徳」のオンパレードなわけ。

昔って儒教に凝り固まっているから、娘が親孝行として女郎に売られるのって美徳なの。
あと、主君の子どものために臣下の子が身代わりに討ち取られるのも美徳なのよね。

昔は子どもは親の所有物で、子どもが親にちょっとでも逆らうと「この親不孝もの!」ってみんなこぞって糾弾するのに、親が子どもを間引きしたり、捨て子したり、折檻のあげく殺したり、女郎屋に売りつけるのなんか当たり前だったんだね。


そういうつっこみどころが多すぎる説話を読んで、『自分が説話っぽいものを書いたらどうなるだろう?」って思ったのね。

場所を日本にしても別に良かったんだけど、ちょっとエキゾチックなものを書いてみたくって、アラビアンナイトに出て来るシェヘラザードがシャヘリアル王に語って聞かせた話のひとつ、みたいに書いてみたらどうかなって思ったのね。

でね、これ、実際に書いてみてすごく痛感したんだけど、イスラムのことをあんまりよくわかっていない日本人がイスラム世界のことを書いちゃいけないなって、やっぱり宗教はデリケートな問題ですので、茶化しちゃいけないって思ったのね。

で、まぁ、場所はアッラーの教えが浸透してない昔で、異教の神を崇めていたという設定にしました。やっぱ、怖いもん。こんなド素人の書くものと言っても。


で、今回は短編にして、こうモローの絵のような、エキゾチックで幻想的な雰囲気のものにしたいなって思ったのね、
で、私のいつもの癖なんだけど、いくら創作だからといっても、やっぱり中近東の風俗とかファッションとか把握して置きたいわけよ。

それがねぇ、意外とそういう資料みたいなものがないわけ。

まぁさ、『オスマン帝国外伝』のシーズン4の最後まで視聴した身ですので、
なんとなく雰囲気はわかるんだけど、でもさ、あの番組の衣裳ってほとんど史実を無視しているっていうじゃない?
ま、それはいいんだけど、じゃあ、他にもいいものはないのか?と探してみたんだよね。


で、あったのさ、ひとつだけ、超弩級にいいのがね!!
それはね『ハドマーワト 女神の誕生』って映画だったの。

2年ほど前の映画で芸術系の映画館で上映していたんだけど、
スケジュール会わなくて見逃したんですよね。


しかし、この映画は話の内容ははっきり言ってどうでもよくて、
ただただひたすら、主役の王妃『パドマーワト』が美しかったです。

王妃さまはもう5分に1回ぐらい、お召し替えしているんだけど、
そのサリー(私達が思っているのとはちょっと違う円形のスカート履いているんだけ)というか
衣裳のひとつひとつが本当に豪華で、お金がめちゃくちゃかかっているのが丸わかりでした。
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でね、王妃様はいつも、ものすごい宝石のついた耳飾り、髪飾り、首飾りは当たり前だと思うけど、
鼻飾りをされているんですよ。それがすごく豪華で、かつ、美しい。
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こんな重たいのを付けていたら、絶対に鼻の形がおかしくなるよなって思うくらい。
そして、手の飾りね。これがすごい。腕輪と指輪が合体したもので、
掌全体に金色に光るものが散りばめられているって感じ。

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まぁ、私はしょうがないからブルーレイ3600円で買いましたけど、
皆さんももしテレビで上映することがあったら、きっとめったに見られないと思うので、
(あ、ネトフリでは見られるみたい)録画してみてみて。

オスマンのファンだったら、好きだと思う。

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このお話はね、こんなにお金がかかっていて、すごく美しいにも関わらず、お蔵入りになりそうになったんだって。

っていうのも、ちょっと宗教にひっかかっているんですよ。
アフガニスタン人でスルタンである叔父を殺した、いわゆる王位簒奪者である
アラーウッディーンって、ちょっと危ないヤツが、世界一美しいといわれるパドマーワトを手に入れるために、インドの西の小国に侵攻してくるのよ。

パドマちゃんは、もともと仏教国であるスリランカ出身なんだけど、たまたまスリランカをおとずれていた王さまと恋愛しちゃってお嫁に来るのね。

旦那さんであるラタン・シン王が、なんつーか正義を重んじるんはいいんだけど、相手を見ろよ、っていいたい。相手はどんな手を使ってもパドマちゃんを手に入れたいと思っている悪漢なんだよ~。
ってちょっと臨機応変って言葉を知らない王さまを見ていてイライラ。

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で、何度もパドマちゃんが王国の危機を救ったんだけど、ついに敗れる日が…。


インドって『尊厳殉死』という因習があるらしい。
まぁ、昔からありますよね「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかし)めを受けず」ってのが。

これって、第二次世界大戦時の日本でもよく使われていて、玉砕とかが正当化されちゃったりもするので、一つ間違うと非常に危ない考え方だと思うのね。

で、おそらく夫が生きて帰ってこれないことを悟っていたパドマちゃんは、夫から『尊厳殉死』の許しを受けるのね。

もし、夫たるあなたが死んだら、私も殉死しますっての。

で、王国中の女性がみんな赤い服を着て、火の中に入って焼死することになるんだけどね。
やはりここらへんが、上映中止になる原因だったのかもしれないね。
だって、パドマひとり死ねば、他の女性は関係無いような気もするし。

まぁ、戦国時代の武将の奥方なんて、誰にもなんにも言わず、辞世の句をサラリと読んで、
首を掻っ切って自裁する人なんてめずらしくもないけどね。

あと、やっぱり、アラーウッディーンがいかにもイスラムの悪者っていうか、ステレオタイプに陥っているところが、ちょっとかなぁ…。

でも、この人、ワイルドでかっこいい。インド映画ってみんな、めっちゃくちゃダンス上手いし。
一昔まえのインド映画って女性は、本当に女神みたいな美女ばっかだったけど、男のほうは、けっこうぽや~んと太い人が多くて「なんで?」って思っていたけど、最近は男性の美の概念の世界水準に達したらしくて、みんなマッチョで背が高かったです。

ちなみにパドマを演じていた女優さんの本当の旦那さんは、この危ないイスラムの王さまのほうらしいw
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天平の甍  [読書・映画感想]

こんにちは、sadafusaです。

私は読書が大好きです。もし本を携えていけるなら、
絶海の孤島にでも行くのも何とか耐えられると思うけど、
本を取り上げられたら、多分、生きていけない。

それぐらい本を読むのが好きです。

しかし、読書にもいろんな読み方がありまして、
自分は疲れている時は小説は読まないんですよ。
どっちかというと、新書とかノンフィクションみたいなものを読むんです。

意外と小説って読むのに力いるんだわw



しかし、このGWになんとノーベル文学賞候補にもあがった
井上靖大先生の傑作

「天平の甍」

を読了いたしました。


実際にノーベル文学賞を取るかどうかというのは、
そのときの社会情勢にもよるんですよね。運も関係ありそうだし。

しかし、三島由紀夫にしろ、遠藤周作にしろ、この井上靖にしろ、
はたまた現在、いつも候補に上がっている村上春樹にしろ、
こういう候補にもなるような方っていうのは、話の内容も外連味などまったくなく、
文体も非常に静謐で端正なんですよね。

やはり読むに値する素晴らしい名著だと思います。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

とはいえ、天平の甍って誰でもその名前だけは聞いたことあると思うんですよ。
私も名前だけは知っていましたが、「なんか難しそうだし、めんどくさそうだな」って
思っていました。

というのも、私、漢字の名前ってなかなか頭に入ってこないんですね。
というのも、カタカナの名前ならきちんと発音できるでしょ?

ですが「普照」なんてパッと書いてあったりすると、「ふしょう」ときちんと声に出して
頭にインプットしないと覚えられないんですね。

奈良時代のお坊さんの名前って聞いただけで、怖気づく。

しかしながら、私、最近、京都国立博物館で鑑真和上の展覧会へ行ってきたんです。
それで、いつもは唐招提寺の奥深くに秘蔵されているはずの
和上のお像を間近に見るという僥倖に近い機会を得たんですね。

失明して閉じられた和上の目には、細かいまつげがきれいに描かれていて、
いかにこのお像を作った作者が、鑑真和上に深い崇敬の気持ちを抱きながら、
細心の注意を払って、ていねいに作られたかっていうのが
見ている私にもじんじんと伝わってくるのです。

私、恥ずかしながら鑑真和上のことはほとんど知らなくて、
中国の偉いお坊さんで、たしか日本に渡ろうとして8回ほど遭難して
海南島にまで流されたこともある人で、
そしてその途中で失明して、艱難辛苦のあげくやっと日本に正しい仏法を伝えた人という
高校の世界史でざくっと習った知識しかなかったんですよね。


ですが、その展覧会でいろいろと鑑真関連の宝物を見ている内に
非常に胸を打たれまして、かつ自分の無知を恥じたのですね。
本当に何も知らないなぁと。

それで今更ながらですが、一念発起してこの本を読んだのです。





天平の甍(新潮文庫)

天平の甍(新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/02/07
  • メディア: Kindle版




一応ここには、現在、アマゾンで売られている新装版を貼り付けておきましたが、実は私、夫の本(それも多分、大学生ではなく、彼が中学か高校のとき、買ったもの)を借りて読みました。

ごくごく薄い本だったのですが、まぁ、長い年月のうちに紙なんて劣化して茶色の変色しているし、
字は今の本と違ってめっちゃ細かいし、「鑑真」の鑑なんて旧字体ですよ。

ですが、今回は精読致しました。さらっと読み飛ばして理解できるわけがないと思ったので。
井上さんの文章は格調が高いので、「須臾」なんて言葉もさらっと出てくるし、

しかも、時の時代の宰相の甥のことをわざわざ姪(てつ)と呼ばせているのです。
それをそのまま、わからないままに読み飛ばすと絶対に話がわからなくなるので、調べると、
中国では、自分の兄弟から生まれた子供(男であろうが女であろうが)のことを姪と呼び、
反対に自分の姉妹から生まれた子供(男であろうが女であろうが)を甥と呼ぶらしいのです。
さらに唐代までの漢文においては、姪(てつ)は甥のことを指すことが多いとありました。

ひえぇえ~、ですね。こんなのは序の口でございまして、
唐の時代の官僚の名前とか当たり前にさらりと出てくるしで、
やっぱり、ノートにわからないことを書いて、調べて、実にノロノロとではありますが、
この名著を読んでいたのですね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、この物語には五人の留学僧が出てきます。

ひとりは、普照(ふしょう)。
この物語の主人公です。彼は日本を離れたときは28歳ぐらい。
この人は大安寺のお坊さん。ものすごい秀才でした。


ふたりめは、栄叡(ようえい)。
この人は美濃国出身。興福寺の僧。
大柄で、ちょっと頑固な人です。

三人めは、玄朗(げんろう)。この人は紀州出身。普照と同じく大安寺のお坊さん。
しかし、不思議なことに普照が大安寺にいたときには、
顔を一度もあわせたことがありません。
この人は一番年若く、25歳。容姿や挙措などが
いかにもいい家の坊っちゃんといった雰囲気を漂わせていました。


四人めは、戒融(かいゆう)。この人は筑紫の寺にいたお坊さんです。
この人も普照と同じく28歳。どこか狷介な性格で、一匹狼タイプでした。

そして、五人めは、業行(ぎょうこう)。
この人は、先の四人が唐の東の都である洛陽に来た時に出会ったお坊さんでした。
業行はすでに、唐の滞在歴は30年近く。ということは、もう50歳ぐらいなのでしょうか。

ともかく、この四人は、それぞれ唐に行ったら、「ああしよう、こうしよう」という
若い人なりの大志を胸にいだいて渡航してきたわけなんですよ。

日本にいたときはそれなりに秀でていたから、「我こそは」という自負心もあったのです。
ですが、実際に大海原を越えて唐に着いて、それから陸路を取って長い旅を重ね、
東の都の洛陽、そして西の都の長安につく頃には、
だんだんと自分たちの立ち位置っていうものが分かってくるのです。

いかに日本が遅れた国であるか、
そしていかに自分たちが仏法の真髄ってものを知らずにいたかということが。

それはそうなのです。
日本には、中国には当たり前にある経典が全く伝わっていなかったんです。

お経も死ぬほどあるけど、またそのお経に対する「義疏(ぎしょ)」
という解説本っていうのも、死ぬほどあるんですよ。

で、四人はこれは一生唐にいて、勉強してもとてもじゃないけど
間に合わないってことがやっと分かるんですよね。

じゃ、どうする?ってことになるのですが、そこは登場人物5人それぞれの思惑が交錯するんです。

普照は、一番現代人っぽい考え方で、己の自己実現、自己完成っていうことを望むのですね。
唐にずっと留まって、仏法の真髄をとことん学び尽くしたいと思うのです。

一方、栄叡は自分よりも故国のことを考えるのです。
日本には、まだきっちりと「律や戒」が整っていない。
これはですね、現代では出家っていうと、すぐにでもなれると思うかも知れませんが、
昔は僧になるにも、きちんと律師という免許のようなものを持った人が
僧になることを希望する人がきちんと仏法を学び、修行をしたことを見定めて
「戒」を授けて初めて、正式な僧侶になれるのですよね。

だから栄叡は、日本には未だそういう正式な戒を授ける人がいないということで、
だれか日本に渡ってもいいと行ってくれそうな高僧を探すことをライフワークにするのです。


しかし、坊っちゃんの玄朗は、脱落してしまい、出奔して唐人の女と暮らすようになります。

そして狷介な性格の戒融は、死ぬような思いをして唐まで来たからには、座学などに時間を割かれるのは無駄だと判断し、托鉢僧として広い大陸を行脚し、実際に自分の足を運んで、自分の眼で広い世界を見る道を選ぶのです。


そして、業行。この人はどこにも行かず、日本にお経を伝えるため、
ただただひたすら、机に向かって写経をしていたのです。

劇中の登場人物たちは、わざわざ唐まできて、どこにも行かず、学ばず、写経にあけくれる
業行のことをバカにします。

しかし、と私は思うのです。
皆さん、博物館や美術館で、昔の写経の巻物をご覧になったことがありますか?
今のようにワープロもなく、印刷機もない時代。
貴重な紙に一字一字写して行くのが、どんなに苦しい作業か。
墨で漢字を書いていくのですから、間違いは許されません。
ものすごい集中力が必要です。

業行はそんな苦行を30年以上もやっているのです。
こんなことは、ちょっとやそっとの意思ではできないと思います。
読んでいて、バカにされつつもひたすら写経に明け暮れる業行が
こう、なんていうか胸が締め付けられるくらい健気で愛しく感じられるのです。


普照らが何年か滞在していた時、日本へ帰る船が出ることになったのです。
普照は業行にこれまで彼が写してきた膨大な数の写経の一部を船に乗せてはどうかと
打診するのですが、きっぱりと断られるのです。

「いざというとき、お経の代わりに自分が海に入るくらいの気概がある人でなければ」
と。

それはそうですよね。自分が心血注いで書いたお経をそう簡単に海の藻屑にされては
かなわないってことです。
そこらへんのこだわりは並の人間にはわからないんですね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方、律師を探していた栄叡は、ついに日本へ行ってくれるという高僧を探し出すのです。
その人こそは鑑真。

しかし、鑑真は唐でも国の宝と思われるほど、徳の高いお坊さんですので、
日本などへ行かせたくはないのです。
「そんな野蛮な国へなど行って、何になるというのですか?」
とにかく、鑑真の真の価値を知っている人ほど、彼の日本行きを邪魔しようとするのです。
そして、鑑真に日本行きを決意させた日本人である栄叡や普照らを憎むのですね~。

しかし、何回となく座礁しても、鑑真の堅い決意は変わらない。
「行くと決めたからには、必ず行く」

しかし、海南島に流された時、頑健な身体、堅固な意思を持っていたはずの栄叡が
病に倒れ、死んでしまうのです。


ひとり残された普照はなんとか業行に掛け合い、彼が写経したお経を一緒に携えていこうと
説得します。
業行はすでに齢、六十を越えた老人となっていました。
写経に人生をほとんど費やした彼は、異様なぐらい自分の膨大な写経に固執するのですね。
渡海する時、必ず自分の乗船する船と一緒にお経がなければ承知しない。

本来ならば、冷静に考えれば、出航する船は四隻あるのだから、四分の一に分散するべきなのです。
たとえ、一隻でも日本に付けば、少なくとも彼の本懐は果たしたことになるからです。
しかし、頑迷な老人と成り果てた業行は、それを承服できないのですね。

結果として、業行を乗せた船だけが、沖縄の海中沖で沈んでしまうのです。

もう、泣きました。
こんなことになるなんて、本当に神も仏もあるものか、と思ってしまいます。
そして彼の人生って何だったのと。


井上さんは、業行に空海が留学するまで伝わらなかった秘密部(密教)の経典も書かせています。
もしも、このお経が伝わっていれば、もっと早く密教、もっと完全な浄土宗の教え、
そして、中世にやっと伝わった禅の教えも伝わったはずなのですねぇ。

唐の時代には、すでにすべての教えが存在していたのです。
私はそんなことも今の今まで知らなかったですね。



ともあれ、艱難辛苦のあげく、鑑真は日本に四年とどまり、そして亡くなられたのです。

彼が日本に正しい律をもたらしたことも素晴らしいことなのですが、
そこに至るまでの俯仰不屈の精神、それを助けた人の意思、
それこそが奇跡だと思うのです。



静謐で深い感動、これが井上文学の真髄かもしれないですね。
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冷えた心にひとつの情念 『霧(ウラル)』 [読書・映画感想]

最近、サボって読書感想文描いてこなかったわぁ。

くだらない愚痴ばっかり書いていてさぁ。

でも、本を読まない日というのは、ほぼないです。

さて、今回ご紹介したいと思うのはこの本です!ジャン!

『霧(ウラル)』

霧 (小学館文庫)

霧 (小学館文庫)

  • 作者: 桜木紫乃
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/11/16
  • メディア: Kindle版



このタイトル、気になりますね…。
霧と書いて、「ウラル」と読ませる。
このウラルというのは、いわゆる「ウラル・アルタイ語族」のウラルでしょうか?
とするとウラル山脈というのは、霧山脈という意味だったのかな?


日本ってごくごく当たり前に使っている言葉でも
意外と知らないで外国の言葉使っていることあるんですよね。
例えば、「イクラ」と「明太子」
イクラってロシア語らしいですよ。
それも鮭の卵じゃなくて、魚の卵ならすべて「イクラ」
明太子はもうちょっと複雑で、朝鮮渡りなのは明らかなのですが、
でも、ルーツを探っていくと、ロシアでも「ミンタイ」と呼ぶらしいので、
ロシア→中国→朝鮮→日本へと伝わったんじゃないかという話です。

あ~、また、言葉の迷路にハマってしまった!

~~~~~~~~~~~~~
さて、本筋に行きましょう。

私ね、以前から書いているように、桜木紫乃さんって好きなのね。
なんでかっていうと、彼女の地の文がものすごく、美しいから。
特に情景描写で登場人物の心象風景を表現することが非常にうまい。
でね、桜木さんのお書きになる人物っていうのは、
感情がめったに高揚したり、沈んで悲しんだりしない
冷めた人が多いのね。

普通、人って「もっと幸せになりたい」っていう欲ってもんがあると思うの。
ところが、桜木作品の大抵のヒロインは、ものすごく美しくて、
しかも才能も気骨もあるくせに、それを発揮することなく
さらなる幸せの追求をすることがない。

それって「己の分際を知」っているから、慎んでいるっていうのとも
ちょっと違うと思うし、そこらへんが、いまいち私にはわからないところなんですねぇ。

彼女の創作した人物の心持ちっていうのを想像していると、
なんかいつも必ず、『嵐が丘』のヒースクリフを思い出すのね。
あの人もなんか不可解な人じゃん?




彼女の書く小説の舞台はそのほとんどが北海道、
それも小樽とか函館とか札幌みたいな拓かれたところじゃなくて、
いつも舞台は釧路あたりの道東なんだよね。
今回の舞台は根室ですよ。

根室半島から見ると、あらら、北方四島が目の前に!
こんな目と鼻の先が外国っていうのも、不思議な気持ちになるもんです。

おそらく、北海道に住んでいる人だって、こんな根室とか釧路みたいな
遠いところへ行ったことない人もすくなくないんじゃないんじゃないかなぁと
思いながら読んでいました。

根室ってとんでもないど田舎なんじゃないかと思ったりするんですが、
(行ったことないから実際、どうかはわからないのですが)
意外と海とヤクザって切り離せないものらしいです。

だってさ、魚って別にオリに入れられて飼われているわけでもないから、
「これは日本の海で取りました」って取っているところを見られさえしなきゃ
言い張れるじゃない?
それにさ、ロシア人はおそらく昆布なんか食べないから、日本人に売りつけたほうが
利益になったりするじゃない?

そういうね、国交が正常化していないのに、闇で取引されるものって意外と多いものらしいのね。
マグロ漁船に乗り込む人だって、あんまり過去を詮索しないものらしいよ。
だから、世の中からはみ出した前科者なんかも多いって聞くし。

とにかく、銀座なんかの一流のお店で、おいしい食材だったらどんに高くても
買います!っていう需要がある限り、こういう商売は廃れないってことよね。



さて、時代は昭和30年代の中頃。
根室を牛耳る河之辺水産の社長には娘が3人いた。

長女の智鶴、次女の珠生(たまき)、三女の早苗。

でヒロインは次女の珠生。
この人は親に反発して、15の時、地元の根室で
芸者になるんすよ。

私だったら、そんな親が住んでいるところの目と鼻の先で
しかもそんなしょぼい花街なんかで芸者しないで、
もっと東京の新橋あたりで修行したいなと思うんだけど、
しかし、珠生はそうしない。

まぁ、それで20歳のとき、闇稼業の男、
相羽重之(あいばしげゆき)のことが好きになる。

でねぇ、これ、夫が言うには、高倉健が演じたらピッタリだったっていうの。
でももう、おなくなりになっているし、
私だったら、そうだなぁ、舘ひろしかなぁ、
でも舘ひろしさんもステキだけど、もうかなりお年だしね、
今だったら、案外玉木宏でもいいかもしれない。

ぱっとみ、彼もしゃべらないクールな男を演じられるような気がする。

で、ヒロイン珠生の方なんだけど、思いつくとしたら、
夏目雅子以外にはいないような気がするんだよね。
絶世の美女だし、今の女にはない、芯の強いものをもっているじゃない?
いつもはひっそりとしていても、いざとなったら、啖呵を切れるような凄みがある女性。

あ、若い時の岩下志麻でもいいかもしれない、そういう意味では。


組の親分の肩代わりにムショに入る前の晩に、
珠生と相羽は野付半島へと車で向かう。
車の中で、相羽は自分の生い立ちを語ってくれた。
戦争でソ連軍が攻めてくるまでは国後島に住んでいたのだと。
だけど、追手から逃れて船で逃げようとした時、大波にさらわれて、
相羽以外の家族全員は失ってしまったのだと。


珠生は、そこで決心をする。
この人から離れない、と。

小説の中では、一度も『愛している」みたいな甘い睦言を交わすシーンなんてないんですよね。

相羽は裏稼業をしている人間らしく、籍を入れて妻となった珠生でさえも
打ち明けれられない秘密をいくつもいくつも抱えている。
しかも、自分以外に女もたくさん囲っていることも知っている。
でも、彼女は夫がその女たちの中から自分を妻に選んでくれた、
その気持だけを頼りに生きているんですね。

あるとき、ヒロイン珠生が、相羽とその愛人にばったり鉢合わせするシーンがあるんですが、
それが圧巻です。







 珠生は過去いちばん気遣いを込めたお辞儀をした。喜楽楼の玄関での見送りでも、こんなに心を込めたことはない。己をおとしめないためにする挨拶だった。心を込めて頭を下げなくては挨拶のあの字にもならない。下げた頭の隅に、自分という女の輪郭が浮かび上がった。


「お出かけのところに、あいすみません。相羽珠生と申します。主人が大変お世話になっております。近所に用足しに参りましたところ、うっかりお宅の前を通りかかりました。夕どきに無粋なことで、お許しください」




すごいねぇ~。いくらヤクザの親分でも、自分の妻にこんなふうに言われちゃったら、ぐうの音も出ないわ。ヒロインは惚れた男に邪魔な女、無粋な女、足手まといな女と思われなくないんでしょうね。まぁ、こんな気位の高さこそが、男が惚れる要因なんだと思うけど。

で、もともと親の敷いたレールに乗るのが嫌で、芸者になった珠生は、夫が愛人やら妾を増やすたんびに夫に嫉妬して泣きわめいたりしないかわりに、金で買える着物とか宝石とか買うようになる。それも生家の人間が着るようなお上品なものでは決してなく、かと言ってかつて芸者をしていた粋筋のスタイルでもなく、それはまぎれもなくヤクザの姐さんスタイルになっていくんだけど。

だけど、姉が地元の有力者でかつ国会議員に出馬しようとする男と結婚するあたりになると、だんだんと雲行きが怪しくなるんです。
姉が言うには、相羽は国会議員になるための資金を裏稼業で稼いでいるらしいとのこと。

二重三重にくるまれた嘘。
その嘘の中でも、毅然として生きていこうとするヒロインの姿には
心動かされるものがあります。

決してヒロインの夫、ヤクザの相羽は優しくないんですよ。
それでも、その中でひとつ、ふたつ、ちょっとでも優しい言葉をかけられると
珠生はそれを一生の宝として、心の支えとして生きていこうと思うのですね。

しかし、姉の夫が国会議員に当選した直後、
裏稼業をしていた相羽は、口封じのために何者かに殺されてしまう…。

さめざめとした愁嘆場もなく、淡々と葬式をこなすヒロイン。

やっぱり、『鬼龍院花子の生涯』でヒロインを演じた夏目雅子のような人が
演じるのがいいなと思いました。


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『逆境力』 パトリック・ハーラン [読書・映画感想]

私は、普段、目的なしにほとんどテレビを見ません。
ワイドショーなんてここ30年ぐらいみたことがありません。
要するに、嫌いなのね。
芸能人がどーした、こーした、そんなことは全く興味がない。


ただ、平日は投資の勉強のために去年の2月ぐらいから『モーニング・サテライト』を
視聴するようになりました。

で、毎週金曜日の終盤ごろになると「パックンの目」っていうコーナーがあるんですよ。
そこで初めてパックンことパトリック・ハーランさんを知りました。

で、テロップっていうのかな、彼が画面に登場すると
「パックン ハーバード大卒、投資歴20年」って書かれてあるんですね。
で、パックンってすごくすらりと背も高いし、いかにもアメリカのエリートってかんじの
爽やかな容貌だし、スーツの着こなしもいかにも、投資顧問会社のアナリスト然としているので、
「わ~、この人、代々親もハーバード卒で、
 きっと幼稚園から超お金持ちの有名私立かなんかで育って、
 高校はフィリップスみたいなところで勉学にいそしんだんだろーなー」
って、思いながら見ていたんですね。

それにしては、言うことが洒落ていて、いわゆる寒い親父ギャグとは無縁の人なんですよね。

 

で、パックンって実は「パックン・マックン」というコンビを組んだ芸人さんだとは、知りませんでした。

へ~!ですよ。

それでそのつい先の金曜日にお金持ちのお坊ちゃまだと思っていたパックンは
番組の中で
「実はですね、ボクって母子家庭で育って、いわゆる貧困家庭に育ったんデスヨ。
 で、大きくなるまでずっと脱脂粉乳しか飲めなかったくらい貧しかったんです」
っておっしゃったんです。

すごくびっくりしました。そして「この本を上梓したので、抽選で◯名さまのプレゼントしま~す」
みたいなことをおっしゃる。

私はすぐに読みたかったので、番組が終わったら即、アマゾンでポチリました。



逆境力 貧乏で劣等感の塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由 (SB新書)

逆境力 貧乏で劣等感の塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由 (SB新書)

  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2021/02/05
  • メディア: Kindle版



で、もうページ繰るのももどかしく(あ、電子書籍だから本当はページなんか繰らないんだけどね)
一気に読みました。

パックンはコロラドのど田舎で育ったんです。
お父さんが軍人だったのですが、
非常に責任の重い任務についていて
お母さんはお父さんの持って帰ってくる重たい雰囲気に耐えられなくなって
パックンが7歳の頃、ついに離婚されたそうです。

パックンにはお姉さんがいて、
当時お母さんがふたりとも引き取ったので、
お父さんからそれなりの養育費をもらっていたのですが、
パックンが11歳のとき、お父さんがお姉さんも自分の元に引き取ってからは
養育費は一切送られてこなくなったそうです。

結果的にはお母さんが小学校教諭の資格をとり、
それからはかなり状況が好転したとはいえ、
その最悪の状態が、パックンが17歳になるまで続いたそうです。

本を読みながら、テレビに映っているパックンは
非常に快活で幸せそうなのに、実はこんなにこんなに苦労していたんだね、
ってびっくりしました。

例えば、貧乏すぎて、鉛筆が買えなかったので、
たいてい、学校でどこかに落ちているものを拾って使っていたとか。

お腹いっぱい食べることすらできなかったとか。

貧乏すぎて、アメリカの高校生にとって一番華やかな行事であるプロムに
女の子を誘えなかったとか。

お金のかかる部活である、力のある男のコなら絶対に入部したい
アメフト部に入部できなかったとか。

私も経験があるからわかるんだけど、
みんなが楽しそうにしているのに、自分がお金がないからできないで
じっと我慢している状態っていうのが一番辛いんだよね。

これが、貧しいアフリカの国で、村中がみんな貧しくて裸足でしたっていうのは
さほど辛いわけじゃないと思うんだよね。


とにかく、パックンはお母さんを喜ばせることなら、なんでもやったと書かれていました。
なぜなら、お母さんは保険の外交員をやっていて、それも本当にほそぼそとしたお給料しかもらえなくて、「明日はどうやって生きよう、何を食べられるだろう」って思って、夜中にひとりで泣いていたのを知っていたから。

それでパックンも中高生のころは、家計を助けるために
新聞配達をしたそうです。

朝の三時に起きて、三時間配達をして、六時半に学校について、
学校が始まる前まで寝ていたとか。

それでも、高校は主席で卒業し、教会のグリークラブの参加し、
ビーチバレー部に所属して、ばりばり部活に勤しんでいるんですよね。

すごいことです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

なんかこの自伝、読んでいると落合信彦さんとか、
姜尚中さんなんかを思い出すんですよ。






アメリカよ! あめりかよ! (集英社文庫)

アメリカよ! あめりかよ! (集英社文庫)

  • 作者: 落合 信彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1991/06/20
  • メディア: 文庫





母 ―オモニ― (集英社文庫)

母 ―オモニ― (集英社文庫)

  • 作者: 姜 尚中
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/03/19
  • メディア: 文庫



なんでかって言うと、落合さんも姜さんも、育った環境ってめっちゃくちゃ劣悪だったんだけど、
三人とも、めちゃくちゃ頭脳明晰でかつスポーツもでき、オールラウンドプレイヤーなんだよね。
しかも、みんな容貌もよく、人に好かれるっていうか、「この子になら!」と思わせるカリスマ性があるんだよね~。


だから、非常に苦労はされただろうけど、
こういう人はいずれ、世に出る傑物だから、それはそれでいいと思う。


ただ、ここからが問題。
世の中、そうそう、彼らみたいに才能や容貌に恵まれている人はいないんです。

いまや、日本の貧困家庭は7人に1人。
しかも、日本の場合はその貧困ってものが、一見しただけではわからない。
なぜかといえば、お金持ちも貧乏人もファストファッションで身を包んでいるし、
また、みんなそれなりにスマホを持っている。

昔みたいに『巨人の星』の星飛雄馬みたいにツギのあたった洋服を着て、
いかにも貧乏って人っていないもの。

で、そこがまた問題を複雑にしているんですよねぇ。

で、話は元へ戻す。

貧困家庭とされるボーダーラインは122万円だそうですよ。
そこから導き出された日本の相対的貧困率は15%。
さらに子供の貧困率は14%ということです。
つまり、1クラス35人だとすれば、そのクラスの中には5人は貧困家庭の子供がいるってことです。
貧困線スレスレの家の月収は約10万。
家賃、水道光熱費、食費を賄えば
あとはほとんど残っていませんよね。

こんな家の子は1万、2万というレベルではなく、1000円、2000円にも困っているのです。
こんな家は「塾に通わせられるお金がない」どころではなく「昼食代がない」のですよね。

お金がない家の子供は、親は働きづめに働くから、ほとんど鍵っ子。
親子の会話がないから、語彙力は伸びない。
そしてギリギリの生活をしているから、
普通の家庭に育っている子供なら当然の思考力が育たない。

ピザやホールケーキを切って分けたこともないから、ケーキを三分割することすらできない。
これはこの本に詳しいです。


ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者: 宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書



こういった子供は、自分の心の中に湧いた感情を言語化すらできないから、
自分がどう困っていて、どう助けを求めていていいかわからない。

それで、だいたい小学校の中学年の終わりぐらいになると
先生の言っていることが全くわからなくなり、
孤立して学校がつまらなくなり、似たような環境の子とつるみ、
ドロップアウトしてしまうんですねぇ。

ですから、このパックンの本の後半は、現在の日本の貧困家庭の実態、
そしてそういう子供を救うために活動しておられるNPO法人など紹介し、
取材されています。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この本で非常に慧眼だなと思ったのは、
貧困家庭や施設で育った子供にも、進学のチャンスを与えようとしている
取り組みを紹介しているところです。

たとえば施設で育った子は、たとえどんなに優秀でも
「施設育ちだから」ということで
進学の道が閉ざされてしまうということです。

それでも自分の力で進学しようとすると、とてつもない借金地獄に見舞われる。
しかし、中にはチェコの大学を卒業している子もいます。
なぜなら、チェコは日本より物価が安く、授業料は年間12万ほどで済むため、
日本で教育を受けるよりも安くすむからですね。

あと、企業の中には優秀な人材でも、そういった貧困家庭出身ゆえに
背負った学資ローンを肩代わりし、その後、無利子でゆっくりと返済していくシステムがあるところも
あるそうです。

日本って「おまえは貧乏な家に生まれたんだ、分相応に世の中の最底辺の仕事をすればいい」
と平気でいう、無神経なところがあると思います。

でも、こういった団体はまず、「あなたはなにをしたいの?」と子供に尋ねることからするそうです。
自分には未来なんかない、と思い込んでいた子は初めて、自分は何が好きで、どういうことに興味があるんだろうって考えるそうです。

少しずつですが、世の中、いい方向へ向かっていくようになったらいいですね。

私も自分の力だけでなく、周囲の方々のいろいろな温情で、無事子供を成人にすることができました。
これからは、少しずつ、その感謝の気持ちを何かの形で恩返ししたいなと思っているところです。


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現代の仙人? 『5度の臨死体験が教えてくれたこの世の法則』 [読書・映画感想]

皆様、こんにちは~。
sadafusaです!


さて! ばらネコさんとのベルばら合作のお知らせですが、
pixivのほうでは、もしかしたらこの週末ぐらいにはUPできるかもしれない、
というところへ来ているそうです。

ただ、それでもpixivにUPするにつれてやらなければならない諸々の雑事みたいなものが
あるみたいなので、延期する可能性も無きにしもあらず、というところらしいです。

また詳しいことが分かり次第、連絡しますね。
楽しみにお待ち下さい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、私、kindle unlimitedを定期購読していることは、
以前ここでもお話しました。

これのいいところは、実額だしてまで買わんわ、というような
本でも読めるということです。
何冊までタダということではなく、一定額を払っていれば、
どこどこまでも読めるということ。
だから、unlimited なんでしょうか。


この世の不思議が好きな私は、またしょーこりもなく、
こんな本を読みました。



5度の臨死体験が教えてくれたこの世の法則

5度の臨死体験が教えてくれたこの世の法則

  • 作者: 小林健
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2017/09/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




著者の小林健サンという方ですが、すごく不思議な方です。
父方のおじいさんがユダヤ系ロシア人、おばあさんがロシア人。
この方たちは、どういう事情でロシアから日本へ亡命したのかまでは
書かれていませんが、おそらくロシア革命かなんかなんでしょう。

亡命先の新潟でこのふたりのロシア人は出会って、うまれたのは
お父さん。日本生まれの日本育ちですが、外見は完全なロシア人ですよね。

そして、そのお父さんと日本人のお母さんの間に産まれたのが小林さんというわけ。

で、まぁ、これだけなら珍しいけど、ありえる話なんですが、
不思議なのは、ここから!
おじいさんはユダヤの神秘である、カバラを扱う一種のマスターみたいな人だったそうです。
どんなふうに?と言われると私も完全に理解していないのですが、
一種の霊能があったようです。

そして小林さんのお母さんの血筋は、本草綱目の大家だったみたいで、
要するに東洋医学のエキスパートだったようです。

で、この小林さんは現在、80歳ぐらいだそうですが、
これまで、なんと! 5回も完全に死んだ状態から生き返ったそうなのです。

それも、溺死してまる一日経っているのに、おじいさんのカバラの力で蘇生したとか、
パラシュートが開かなくて、海面に激突したのに、やっぱりお父さんが助けてくれたとか、
なんやかんや完全に死んでいる状態で、5回生き返ったんですよね。

で、その後、臨死体験した時、あ~だった、こ~だったみたいなお話なんですよね~。


読んでみて、とてつもないヨタ話にも思えるところもあるし、
もしかしたら、そうなのかな~と思えることもある。

ただ、小林さんは輪廻転生とか、因果応報とか、来世の運命みたいなものを
基本的には否定されていますね。


ただ、これまで読んできた本の中で、
流水りんこさんなんかのインタビュー漫画の中では
インド占星術などは、星の運行と人の運命(来世も含む)はほとんど決定されている
みたいなものもあるので、
(インドはそのための国立大学もあり、歴とした学問にジャンルされている)

にわかにはこの小林さんのおっしゃっている主張というのも
「そうなのかな」とは信じがたい。

ただ、なんとなく、現代に生きる仙人みたいな、
あるいは18世紀に現れた「サンジェルマン伯爵」みたいな人のような
そんな感じですかね。

「量子力学」について述べられていますが、私は全く理解の範疇外です。

ただ、もしあの世があるとしても、
人間の認知能力には限界があるので、
霊能力を持ってしても、全知というわけにはいかないんじゃないだろうか、
などと考えております。

小林さんは、現在、自然治癒というか
東洋医学というか、そういうものをもっと知らしめるという使命のために
NYのほうに在住ということです。

~~~~~~~~~~~~~

余談

私は、自分のメンタルが病んでいてソレを直すために
いろんな本を読み、いろんな「体と心にいい」と言われることを
実践してきましたが、

食事療法ひとつについても、本当にいろんな考え方があり、
「断食したようがよい」とか
「肉はたべないほうがよい」「肉は積極的に食べないとよくない」とか
「油を取ったほうがよい」とか「油は体に悪い」
とか本当に真逆なことを説いた健康法が山ほどあるんですよね。

正直、私にもどれが本当に正しいのかわかりません。

ですが、まぁ一つ言えることがあるとすれば、
「食事は楽しくするもの」であまりに苦痛を伴うことはしないほうがよいだろう
ってことです。

人間、ひとりひとり体質が違うので、
その人がいい、と思えるような
暮らしをしていくのがベストかなぁと。

いくらも体に良くても、一ヶ月ン万円もするような
サプリを購入するのって、現実的じゃないです。





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結婚って本人同士だけのことじゃない『顔で選んだダンナはモラハラの塊でした 』 [読書・映画感想]

今日はこの漫画を読みました。


顔で選んだダンナはモラハラの塊でした (コミックエッセイ)

顔で選んだダンナはモラハラの塊でした (コミックエッセイ)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/06/04
  • メディア: Kindle版



これね、読むのが非常に、非常に辛かった…。

なんかあっけらかんとした可愛らしい絵で、そんなに難しい内容の本ではなかった。

けど、モラハラ男というのは、こんな感じかなぁ~って、
なんか胸がえずくと言うか、ムカムカするんですね。


話の内容は簡単に言っちゃうとこうです。

あるとき、主人公の女の子が自分にとってどストライク・ゾーンのお顔のハンサムな人に出会うのです。
女の子のほうはひと目ぼれ。

ですが、女の子のほうは東京在住、反して男性の方は広島に住んでいたのです。
で、頻繁に会うこともなく、ラインでだけの会話が一年半ほど続いたあと、
男性のほうか「ねぇ、一緒に住まない?」

女の子のほうは、ぞっこんの男性にこう言われて、一も二もなく快諾してしまうのですね。

~~~~~~~~~~~~~
そこから先は、もうわかりますね。
この男はモラハラ男だったのです。

貯金はゼロ。
つまり金銭感覚ゼロです。
自分で結婚式をするだけの甲斐性もない。
一緒に住む所を用意する金もないので、
敷金や礼金まで彼女に払わせる。


なのに、物欲や性欲だけは人一倍で、主人公の女の子が
妊娠してつわりで苦しんでいる時も、出産して身体が弱っている時も、
ストレスから子宮にポリープができて、手術した直後も、
「いつ◯◯できる?」
ってこいつバカじゃないの?

って思わざるを得ない。

とにかく何から何まで、大人の男性が持ち合わせるべき責任感とか
そういう諸々の自覚がまるでなく、まるで子供が大人になったようなわがままさ。


ということで、最後にはひと目ボレした主人公の女の子も離婚に踏み切ったという、
そんな話です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

私、なんでこんなにムカムカきたのかなぁと考えてみると、
それはこの男がうちの父と兄にそっくりだったからなのですね。

うちの父という人は自分だけが贅沢していればいいみたいな人間で、
自分だけは常にロレックスの時計をし、アカスキュータムのコートを着、
ネクタイはエルメスか、ニナ・リッチか、ピエール・カルダンか…。

うちの母は、イケメンだったうちの父に一目惚れで、実は当時婚約者がいたというのに、
結婚したらしいです。

でも、どんなに訊いても、結婚した日も答えられないし、どんな花嫁衣装だったのと訊いても
「う~ん、忘れちゃった~」ってごまかすばかり。
ハッキリ知ったわけじゃないけど、
おそらく、だらしない父の誘いを断りきれなくて、デキ婚だったんじゃないかなと推測します。

で、母はどんなに父が理不尽なことを言っても結局は耐えているんだよね。
で、辛いから、実◯倫◯に入ってみたり、キリスト教に入信したり、また仏教に帰依したり、
インドの経典を読んだりで、宗教ジプシーになるんだけどね。。。

しかし、どっかでこの遣瀬ないイライラを解消しなきゃならないわけよ。
その餌食が私だったというわけです。
私はさながら、クレヨンしんちゃんにでてくるナナちゃんのママのうさぎでしたね。笑


~~~~~~~~~~~~~~

私、両親みていて、絶対にこういう夫婦生活だけは嫌だ、って思っていました。
かあちゃんばっかり働かされて、とうちゃんは贅沢に飲み食いして遊んできてさ~。
うちの場合なんて父親が帰ってくるまで部屋がピカピカに掃除されてなくちゃいけなくて、
しかも子供は絶対に寝てなきゃならなくてさ~。
起きて騒いでいようものなら、またフッと父親がふてくされてどっか行くんだよね。
そして母親の金切り声の雷が落ちるんだわw

ほんと、不健全な一家ね。


とにかく、結婚なんて相手がアイドルなみにイケメンであるとか、そういうことで選ぶもんじゃないと小さい頃から悟っていましたね。


で、私、読んでいて不思議に思うのは、ロクに会いもしないのに、いきなり同棲しちゃうことですよ。

なんで?って思うのよね。

お試しに同棲して、合わなかったら同棲解消すればいい、みたいな軽い気持ちなの?って思わずにはいられない。

そんなうかつな気持ちでいるから、失敗するんだと思う。
(失敗するのが悪いといっているんじゃない。
 だけど、失敗しないに越したことはないと思うんだな)

まず、順番としては男のほうが女側の親に挨拶に来て、
そして家族の履歴を渡して、「年収はどれだけあるの?」とか「今、貯金はどれだけあるの?」
ぐらいは訊きますね。

その答え方次第では「これはやめといたほうがいいヤツかもしれない」ってわかるもの。
実際に娘が結婚した場合でも、同じようなことしました。

まずね、これが快諾できない男は社会人として失格よ。
それを嫌がる男なら、結婚は賛成できませんね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~
案外、こういうところがうまくいく結婚の前提なんじゃないかと思ったりするのね。

まぁ、それでも離婚することもありますが、だけど、それでもこんなモラハラ男と離婚するんであれば、女性のほうが有利になる場合が多いと思うよ。

しかし、この主人公の両親は、同棲することも反対しないし、
男のほうが家に挨拶に来なくても平気。

いやいや、そうじゃないと思うよ。

~~~~~~~~~~~~~~

同棲して成功する場合もあると思うけど、
それは男女が同等な経済力、同等な地位にある場合だけだと思うな。


まぁ、舞い上がって同棲刷る前に、きちんと相手がどんな人間か見抜く
洞察力が大変大切になるというわけです。

苦労しても苦労しがいのある相手を選ぶべきだと思います。


結婚式ってね、案外両家の価値観みたいなものがはっかりと現れるものなの。
家の裕福度とか、価値観とか、教養とかいろいろなものがね。
実際にあった話なんだけど、知り合いで家族婚したあと、話がご破算になったケースを知ってるの。
嫁さん側はお父さん、お母さんはきちんとモーニングで黒留、もちろんお嫁さんは花嫁衣装を着ましたよ。だけど、お婿さん側はスーパーへ買い物にでも行くような格好してきたんだって。

いやしくも厳粛なお式にそんな格好でくる人とは、この先うまくいくはずがないってね。
お嫁さんも悲しかったけど、お婿さんが「何が悪い?」と開き直った態度を見て、
「あ~、これはあかんわ」って悟ったんだって。
ま、そういうケースもあるってこと。


*これはあくまでも、私の私見ね。
 別に同棲した人が悪い、モラハラを見抜けなかった人が悪い、というつもりはないです。
 片親でも必死になって子供を立派に育て上げたお母さんはたくさんいらっしゃいます。
 そんな人には頭が下がります。

 ですが恋は盲目のことわざ通り、たとえ若い娘が相手の男のモラハラの可能性を見抜けなくても、
 それなりに人生の経験を積んだ両親なり親戚の人みたいな第三者が鋭く見抜いてくれて、
 大きな痛手には至らなかったっていう場合も実際にあるって話です。

 好いた惚れただけでは結婚はできないんですよ。
 一番大事なのは相手の人間性かな。



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子供は親が思うようには育たない  『娘が不登校になりました』 [読書・映画感想]

最近はかなり毎日が忙しいです。

というのも断捨離作業なんですが、やってみるとまだまだ、まだまだってカンジで
「日が暮れて道遠し」って気分です。

まずですね、要るもの、要らないものに分別する作業が一番最初に来るのですが、
これがまぁ、本当に大変な作業なんです。

12月中は毎日毎日ゴミ袋に要らないものをパンパンに入れて、ゴミの日ともなると
だいたい45Lのゴミ袋を6・7袋出していました。

今は、それとはまた違って、屋根裏の物置部屋の分別作業をしています。
長い間、怠慢こいて、うっちゃっておいた大量の大型ごみ。
こいつをまず出さなくちゃいけない。
昔子供らが使っていたCDつきのラジカセとか~。
20年前イタリアで買ったトランクとか~。
今でも使えるっちゃ使えるけど、不便なんだよね。
毎年、毎年海外旅行に行けるほど裕福でもないので、やっぱりこれもゴミ。

子供が小学生の頃作った図画・工作。
大事な思い出の品ではあるんだけど、やっぱりとっておくことなできないので、
一枚一枚、ていねいにホコリをはらって写真に収め、お弔い作業です。

こんなことしていると、あっという間に毎日毎日日が暮れてしまう。

で、最近はkindleumlimitedのタダ本を寝る前に読んでおります。


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今日紹介する本はこれ!


娘が不登校になりました。「うちの子は関係ない」と思ってた (本当にあった笑える話)

娘が不登校になりました。「うちの子は関係ない」と思ってた (本当にあった笑える話)

  • 作者: 小林薫
  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2016/10/27
  • メディア: Kindle版




これを執筆された小林薫先生という方は、主に「ホンコワ」かなんかでサイコ・スリラーみたいな作品を描いておられる人。

私がなんで小林薫さんを知ったかと言うと、流水りんこさんが小林薫さんの漫画のキャラである、齋さんをご自分の漫画に登場させていたからなんだよね。



流水さんちの浮遊霊 (ぶんか社コミックス)

流水さんちの浮遊霊 (ぶんか社コミックス)

  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2014/12/18
  • メディア: Kindle版



齋(いつき)さんは、実はと言えば架空の人物ではなく、実在のお方なんです。
そしてこれまで実際に霊障に遭われて困っている人などの除霊した事件をもとに、小林先生が作品を描いておられたみたいなんですね。

この漫画、実に面白いんですよ。齋さんもかっこいいしね。

強制除霊師・斎 (1) 怨念旅館 (あなたが体験した怖い話)

強制除霊師・斎 (1) 怨念旅館 (あなたが体験した怖い話)

  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: Kindle版



強制除霊師・斎 (10) 霊圧の匣 (あなたが体験した怖い話)

強制除霊師・斎 (10) 霊圧の匣 (あなたが体験した怖い話)

  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: Kindle版



強制除霊市・斎(いつき)ってシリーズで10巻まであるんだけど、惜しいかな、斎さんはどうも最近、お若いのに、乳がんで亡くなったのです。なんかこれも生まれてくる前から決まっていたみたいですが、やはり斎さんといえど人間、やはりいろいろと悩んでおられたみたいですね。

その闘病記もあります。


霊能者ですがガンになりました (ぶんか社コミックス)

霊能者ですがガンになりました (ぶんか社コミックス)

  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: Kindle版





みなさんも興味があったら、読んでみてね。


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さて、小林先生のご紹介はこれくらいにして、

『娘が不登校になりました』

この本、衝撃的です。

実は私もいじめがもとで中学校へ行けなくなり、
高校は一年遅れて入学しているものです。

うちの親はアレですが、過干渉気味なところもあるのですが、それは自分が興味のある範疇だけ。
しかし、ほかは放任気味だったので、そこは気楽で良かったです。

私は学校の先生も学友も大嫌いだったし、それにお勉強もできず、成績も悪かったので、
ここに出て来る小林先生のお嬢さんの気持ちは半分だけわかります。

でも、解るのは半分だけ。

私は確かに頭も悪けりゃ、勉強もできなかったけど、決して
『勉強したくない」とは思わなかったんですよ。

確かに理科は嫌いだった。しかし、だからといって「知らなくてもいい」とは思わなかったんだな~。

だけど、この子の場合、ものすご~く繊細というのか、近くの公立中学へ行って、一年の間は学校生活をエンジョイしていたのだけれど、2年になって担任の先生というのが、なんというのか乱暴な人というか、デリカシーっていうものが欠如しているっていうか、要するに教育はあっても、教養がない人だったんでしょうね。

それでもう、いけなくなってしまったんですね。

それで、お嬢さんはず~っとず~っと引きこもって、布団ぐらしだったそうです。
やはり心身ともに成長期である娘がこのまま、運動も勉強もせずに
毎日を無為に過ごさせてはならないとさすがの先生も思われたわけですよ。

それで普通の学校が行けなくなった子供のためのフリースクールへ行くことになります。
ただし!
ここで勉強したからと言って、ここの学校の名前というか責任において成績表がつけられ
卒業できるわけじゃないってことなのですね。あくまでも籍はもとの中学校にあるわけ。

となるとどういう弊害があるかというと、内申書がどの教科であれ「1」になるということ。
これは相当厳しいです。

で、先生は娘さんを受け入れてくれる私立中学へ編入させるべく奔走するんですね。
で、めでたく編入試験合格!
そしてしばらくは新しい環境の中学へもたのしげに通っていたのですが、中学3年の途中からまた
引きこもり。「学校へ行きたくない」

は~、ため息が出ますね~。

今度の学校はお役所主義的な公立中学とは違い、もっと先生などのスタッフは思慮深い。
もっと慎重に子供たちを扱っていて、何が不満なのかと、先生は鬱憤やる方ない。

でも、子供は笛吹けどけど踊らずというか、やっぱり脅してもすかしても、学校へ行こうとしないんですね。

漫画仲間からは「義務教育はほぼ終えてたんだし、親としてやることはやったんじゃない? もう勉強したくないっていうなら、そりゃ、自己責任だよ、ほっておけば?」って言われるんですけど。

でも、このまま放置しておけば、学歴は中卒。今どきこんな低学歴の人間がどこで働けるっていうの?
社会的弱者になることを恐れて、親である小林先生は必死で娘を励ますんだけど…。

やっとの思い出、今行っている私立中学の付属の高校で内部試験を受け、高校の入学金を収めたあと、
「やっぱりよく考えたけど、行きたくない」と娘がしれっと宣告。

小林先生、とうとうキレます。
「どうして、大金払ったあとで、そんなこと言うのよ!」
「だって行きたくないんだもん!」
「バカ~!」
「お母さんなんか、死ね! 死ね死ね!」
「何だって~、人の苦労も知らずに! あんたなんか産まなきゃよかった!」

子供に向かって「産まなきゃよかった」っていうのは言ってはならない禁句だそうですが、私もその立場に立たされたら、きっと言ってしまうと思います。


結局、またもとのフリースクールに戻ったらしいです。
もう、小林先生は娘に対して、向上心とか向学心を持つことなど諦めていたので、
娘が「語学の専門学校へ行きたい!」といったときにはそうとう悩まれたそうですが、
結局、やはり子供が可愛いで、行かせたみたいです、
卒業できたのかどうかまでは描かれてありませんでしたが、
小林先生のために、娘さんが卒業してご自分の道を歩まれていたらなと思わずにはいられませんでした。


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同じ漫画家業の流水りんこさんのお子さんたちは、すごく優秀でお兄ちゃんは政治学者になるべくイギリスへ留学、そして妹さんはファッションの勉強をするためにやはりイギリスへ。

これはわたしの私見なのですが、これはお父さんの資質の差なのかなって思うんですよ。
りんこさんのサッシーさんはインドの方ですが、非常に仕事に熱心で、子煩悩な方です。
骨身を惜しまず、お客の立場になって少しでも美味しいメニュー、ていねいなサービスを心がけておられる。常に前向きです。りんこさんとしょっちゅう喧嘩しているけど、いつも夫婦は対等。
それでいて、どんなときでもご夫婦力をあわせて、難局を切り抜けて行っておられます。

ところが実は小林先生の元旦那さんは、突然、会社をやめて、布団かぶって引きこもり。


夫がまったく働きません。~大黒柱かーちゃんと、元うつ病ダンナ~ (本当にあった笑える話)

夫がまったく働きません。~大黒柱かーちゃんと、元うつ病ダンナ~ (本当にあった笑える話)

  • 作者: 小林薫
  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2014/04/28
  • メディア: Kindle版




「うつ」なんだって説明されていましたけど、私はそうは思えない。
というのも、私の夫もものすごいうつになって、何ヶ月も入院していたんです。
たしかに最初のうちはバッテリーが消えたアトムみたいになって目に光がなく、
死んだようになって眠っていました。

だけど、こんな旦那さんのように奥さんや娘さんのことを考えない自分勝手なことをするようなことはしませんでしたね。
これはうつとはまた別の症状なんじゃないかと思います。
私にはこれは、モラハラか一種のDVなんじゃないかと思いますね。

小林先生自身はりんこさんと同じように非常に勉強熱心な作家さんだと思います。
もしかしたら、小学生という非常に大事な時期に、全く向上心のない、努力がきらいで、あわよくば濡れ手に粟のような生活を目論んでいた旦那さんを見て育ったことが、原因のひとつなのかも?
人間ってミラー・ニューロンっていうのがあって、環境に染まりやすいっていうしね。

ただし、小林先生自身は非常にあれこれと心を砕いておられていて、気の毒だったなって思います。



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見知らぬ他人の親切が心に沁みる 『NY 親切なロシア料理店』 [読書・映画感想]

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このお正月は、全くもって映画三昧で、ず~っと『京都シネマ』に通っていました。
なんかね、普段なら007とかなんたら殺人事件とか超ビッグでゴージャス&リッチな映画が楽しめるはずなのに、みんな延期なんだもん。

かといって、私もう、若い人が楽しめる映画を面白い、と思えるような年齢はとっくに越したような気がするんだわ。
しかしそれも食わず嫌いで、食べてみたら案外美味しかったってなるのかもしれないけど、今、それほどまでに食指が動かないっていうか~。


~~~~~~~
前フリはこれぐらいにしておいて本題に入りましょう。
私は見たい映画のジャンルのひとつに『お料理がおいしそう』っていうのが好きなんですよ。
ロシア料理って、「なに、それ美味しいの?」って思われる人も多いかも知れないけど、
実はフランス料理のコース料理っていうのは、ロシアから入ってきたものなの。
それまではぜ~んぶお料理をお皿に並べて食べていたのね。

だけど、オードブルならオードブル、温かいスープなら温かいスープとひとつひとつお皿を持ってくるという習慣を持ち込んだのはロシアなんだよね~。

それでもって、ロシアって意外と美食の国でもあるんですよね。
やはり強い権力を持っている皇帝がいましたからね、ロシアは。
そういう国は宮廷が栄えていて、必ずお料理を供されるものだから、必然的に洗練されたものになりますね。


さて、ですからタイトルを見て、「美味しそう』と思ったのですが、
お料理はこの作品の場合、全くの主役ではありませんでした。
ロシア・レストランは出てくるには出てくるけど、ちらっとだけです。

この話はですね、実はDV被害に遭ったまだ若い母親とふたりの息子がですね、命からがら夫から逃げてNYで生き抜いていくかって話なのです。
ほんわかとハートウォーミングで童話みたいな話なのかと思ったら、案外重たい話でした。

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この話を見ながら、アメリカって人権とかいろんなシステムが日本よりも一歩も二歩も進んでいて、夫によるDV被害なんて簡単に逃れるんじゃないかなぁって思っていたけど、

アメリカって一口に言っても広く、いろいろな州があるってことです。

アメリカの大統領選とか見ていると、トランプは共和党で、バイブル・ベルトってところからものすごく指示があるというけど、バイデンなんかは民主党なので、非キリスト教徒にものすごく支持されていました。

まぁ、ものすごく保守的なところと、進歩的なところが混じっているのがアメリカ。

たしかにNYなんて、いろんな人種やLGBTとかいろんな人にとっては寛大な土地だとは思うけど、
また逆にカトリックとか筋金入りの清教徒ばっかり澄んでいて離婚さえ許されなくて、またDVなんかも父権の象徴だとして女や子供にそれを無理やり認めさせていると言うか、黙認しているところもある、ということですね。

そしてこの映画のとっても怖いところはですね、
夫に暴力を受けたのなら、シェルターに入ればいいじゃん?って思うでしょ?
でも、夫は地元では優秀な警察官で通っていて、そのネットワークを使っちゃうとすぐに
居所がバレて引き戻されるってことなんです。

ですから、この奥さんと子供はなんとかNYにたどり着くまでは車で逃走できたんだけど、
お金もないし、クレジットカードも使えないし、身分証も使えないので、
本当に悲惨で、下の子なんか夢遊病か夜驚症らしく、夜フラフラと外に出ていってしまって、
低体温になったりして死にかけたりしたんですよね。


で、もう万事休す、これは居所がバレても病院へ行くしかない!ってところで、本当に見ず知らずの人々が、何人も出てきて、その哀れな親子を残酷な男から見つからないように、命がけでかばってやるのですよ。
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ソレはなぜかといえば、その助けてくれた人々も、おそらくはマイノリティなのです。
移民であるとか、犯罪歴があるとか、おそらく学習障害だったとか。
だからこそ、彼らは切羽詰まった親子の切なさ、悲しさが解るのです。

この映画の邦訳は『NY 親切なロシア料理店』ってなっているけど、
本当は『Stranger's kindness』つまり、「見知らぬ人の親切」なんですね。


深い、深い映画でした。

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余談ですが、この映画のロシア料理店ですが、昔はNYでも指折りの名店だったのですが、リニューアルもせず、そのままず~っとやってきたので、今では古臭くて全くイケてない店なんですね。
黄ばんでしまった地模様入の絹の壁紙、汚れて傷んでいる真紅のベルベットのカーテン。そしてロシア教会に吊り下げられているような立派なシャンデリア。かつては誰もが感嘆して見惚れるほどゴージャスでキラキラと輝いていただろうけど、今は落ちぶれて見る陰もない。

でも、私はそういう一種の胡散臭さ、汚さっていうのも案外魅力的だと思っています。

昔、東京タワーの下にボルガというロシア料理の名店がありました。
東京タワーの下から見下ろすと、そのすぐ真下におもちゃのような玉ねぎ頭のキューポラが見えたものです。

ここはロシアがソ連だった時代、KGBがたむろしていたところだとも言われ、一説によるとこの店とKGBの本部は地下で通じているなどとも言われていました。

全く映画の内容とは関係ないけど、映画を見ながら、そういった昔の思い出を懐かしく思い出していました。


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