ひそやかな吐息のような恋 『シリウスの伝説』 [読書・映画感想]
皆さま、こんにちは。
このアニメーション映画はあのサンリオが20周年記念として
1981年に作ったものなのだそうです。
ええ~、40年近く昔のものなんだ~!そりゃ、わたしも歳もとるはずだわw
しかもなんかすっかり忘れていましたが、サンリオとは!
サンリオというと、どうしてもわたしは「マイメロディ」を思い出してしまって。
あれはあれで柊センパイのウサミミ仮面とマイメロのギャップ萌えがすごい、
ある意味で傑作ではあるんですが(笑)
今は宮崎駿さんのジブリ・アニメが世の中を席巻していますが、
またちがった趣のこんな傑作があったのですね。
なんかまぁ、見ているとディズニーの「リトル・マーメイド」なんかと
設定が似ているんです。アリエルもとってもイノセントでキュートなんですが、
このアニメはね、もっとひそやか。でもうちょっと色調がダークだね。
まぁ、だいたいハッピーエンドじゃないし。
でも、わたしとしては
「それから王女サマと王子サマは幸せにくらしましたとさ、めでたし、めでたし」
って話は好きじゃないんですよ。
たとえば王女さまの中には、
ダイアナみたいな哀しい最期を迎える人もいるじゃないですか。
ある意味、こういうふうに悲しく美しく終わった恋は、
ずっと美しいままに、永遠に輝いていられるって思うんですね。
40年近くのことだから今どういう感じになっているのかわからないけど、
サンリオもまた、頑張ってこんな美しい作品を作ってほしいなあって思うし、
若い人はまったくこの作品の存在さえ、知らない人が多くいるみたいだから
今日は頑張って、『シリウスの伝説』の魅力をお伝えしたい!と思います。
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このお話はかの有名な『ロミオとジュリエット』を下敷きにしています。
それを幻想的な妖精の世界に置き換えたのです。
昔、昔、火と水は本当に仲のよい姉弟で、お互いが混沌と交じり合うほど
深く愛し合っていたのだけれど、
だれかが心ない中傷をして、
それを真に受けてしまったふたりは、なまじ仲がよかっただけに、
それ以降深く憎しみ合うようになってしまった。
そして水は海へ、そして火は陸へとお互いたもとを分かちあって、
再び相まみえることはなかった。
そしてはるかに時代が下がったそんなとき、水の子の王子と火の女王の娘が、突然に出会って、
恋に陥ってしまうのです。
もうもうもう、そのシーンが本当に美しい。
なんていうのかなぁ、キャラクターデザインをした人は本当に優秀な人で
どことなくカイ・イカールを思わせるような洒脱で洗練されたものです。
ふたりは原作のロミオとジュリエットのように思春期の美しい少年と少女なんですよね。
そうだなぁ、まだお互い14歳から15歳ぐらいでしょうか。
大人の世界に足を入りかけているようなそんな時期。
まだ本当に若くて、青くて、純粋。そして一途。
水の子のシリウスは太陽の光に当たれば死んでしまうし、
火の子のマルタは水に入れば死んでしまう。
だからふたりが会えるのは、太陽が沈んで、かがり火が美しくともされる夜だけなんです。
始めは今まで一族の中で伝えられてきた相手の一族の悪口をまともに信じていたふたりは
敵側の人間なんだと猜疑心でいっぱいでしたが、だんだんとそれが誤解であったことに
気が付くのです。
ふたりは運命に導かれるように、やがて一時も離れがたいと思うほどに
深く、深く愛し合うようになるのです。
ですが、ふたりはいずれ一族の長になることを運命づけられていた身なのでした。
自分に責任を感じているふたりは、会うのをお互いに禁じるのですが、
燃えるような恋心はそれを許さなかった。
ふたりは一緒に結ばれる道を模索しますが、それはどうしても実現不可能でした。
やがて、ふたりはある伝説を聞きつけます。
90年に一度、ある植物が芽吹いて胞子を空に向かって吐く。
それは、愛し合うことの許されない恋人たちを
シリウスの星へといざなってくれるのだと。
約束の時間にマルタはその胞子植物の丘へ行くのですが、
シリウスはどういうわけか来ない。
その間にどんどんと胞子は開いて、空へと飛び立ってしまう…。
ああ、わたしたちの胞子は飛んで行ってしまった…。
絶望にくれて横たわるマルタ。
もう、その描写が繊細でねぇ、
群青色の夜空、銀色に揺れるしずく、明々と灯される優しいかがり火の色。
まるで、菱明の中のかそけき光にきらめく、樹氷かつららのようです。
すべてがとても繊細で、それでいてどこか硬質なきらめきがあるのです。
そしてこの作品はすぎやまこういちさんが作曲しておられまして
この繊細な画風にピッタリの、清らかで少しセンチメンタルな
音楽が付いています。
オープニングとエンディングテーマは「サーカス」っていうグループの
コーラスなのですが、
グレゴリアン・チャントみたいにいつも、
三度五度ときっちり移行するような堅苦しさなのではなく、
ユニゾンにはじまって、ぱぁっと花が開くように、ハーモニーが広がっていくんですねぇ。
そして、歌声がとてもリリックで、ささやくように歌っているのです。
本当に美しいです。
火の子と水の子の、初々しくも激しい恋。
水の子の少年は、視力を失って、「マルタ、マルタ。ぼくはマルタが好きだ!」
といいながら、日の中へ入って死んでしまうのです。
そのとき、変態して、大人の女性に変身したマルタは、
(この乙女の姿がまた、美しいながらもそこはかとなく官能的で、素晴らしい造形に驚くのですが)
死んでしまった恋人を抱いて、自らもまた命とりになるはずの水の中へと沈んでいくのですね。
恋人たちは死もおそれず、恋の成就を願うのです。
人間は生きていく限り、こんなに美しい恋に生きることはできないのです。
こんなふうに永遠に美しくて清らかな少年少女の姿のままで、
その熱い恋ごころをいつまでも変わることなく
抱えて生きていくことは到底できない。
それは人間は必ず死ぬという運命を背負っているし、
それに現実の生活は、こんなふうにセンチメンタルな心情を吹き飛ばしてしまうほど、
無情で世知辛いなものです。
だからこそ、こんな美しい寓話の一瞬のきらめきの中に永遠を見い出して、
泣いてしまうものなのでしょうね。
2018-10-29 05:00
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コメント(8)
sadafusaさま、ご無沙汰しています。
昨日、母の命日だったので法要と食事会をしておりました。結局、仏教のお寺でお経をあげてもらったんですが。
父の薔薇園はこの夏の度重なる台風のせいで見るも無残です。それでも負けず咲いた少しの花を持ってお墓に供えました。秋の薔薇って胃をが濃いめに趣が深いと思ってましたが、台風をくぐり抜けたせいもあって、どれも色も形も情緒があって嵐に耐えた風情が美しかったです。
悲恋や悲しみを心に潜ませていると、様々なものの機微が繊細に捉えられて美しく感じる気がします。
by Yui (2018-10-29 10:07)
いくつも興味深い映像作品を教えていただきありがとうございます。この作品もタイトルは聞いたことがあるけれど、見たことがなかったので、YouTubeで検索しました。サーカスのコーラスが美しく、お話もまた悲しい。今のアニメは画像がキラキラしてキレイだけれど、内容はう~ん( ̄~ ̄;)なのも多いので、この作品を見てアニメの素晴らしさを再確認した感じです。郁恵ちゃんや宇野重吉さんも参加していたのですね。朝から素晴らしいものを見て本当に幸せです。ありがとうございました。またいろいろ教えて下さい!
Yuiさま、どうぞお身体に気をつけて下さい。
by おかもん (2018-10-29 10:34)
Yuiさま
ネコちゃんからの悲しみがまだまだ癒えておられないので、こちらにもいらっしゃらないのだと思っていました。
おかあさまの法事、仏教でなさったんですね。
おかあさまは神道だったとしても、あちらの世界には神道も仏教もキリスト教の境もないので、ご本人はもう達観されておられますでしょう。
しかしながら、法事っていうのは、あちらの方を供養するという意味だけじゃなく、こちら側の人間を鼓舞する意味もあるんじゃないかなって今は思っています。
人って先立たれる、喪失の悲しみが案外根深いものです。死者を荘厳することが、こちらの人間を慰める意味もあります。
そして、誓うのですね。命が尽きるその日まで、頑張って生きていきますと。
花屋さんに置いてあるバラは、花も大きくて茎もまっすぐで完全無欠ですが、家で育てたバラはお父さまの思いがこもっています。
きっとあちらの方は、物質的な美しさより、より心のこもった目には見えない美しさを尊ばれるのではないでしょうか。
by sadafusa (2018-10-29 12:04)
おかもんさま
あ、youtubeでご覧になられました?
わたしも久方ぶりに見たのですが、もう感動で
泣いて鼻水でぐちゃぐちゃになりました。
最後、「愛は信じるもの、信じ続けるもの」
って宇野重吉が言うじゃないですか。また決壊しました。
サーカスの歌もステキでしょ。
「♪愛し合う、それは生きてることだから、
誰も止めること、できはしない~」とか
「♪今、互いの目を見つめていれば、ただあなただけがいる~」
みたいなね。
なんかこのコーラスって、荒涼とした大地に、
天からハーモニーが響いて、それが終わったあとの
空気にその声が振動しているような
一瞬の余韻みたいなものを感じる。
そう、今のマンガキラキラしていて、いいんだけど、
あんまり内容がないかなって思うんですよね。
久しぶりにこんなふうに清らかな涙を流すことができて
幸せって思えるアニメですよね。
わたし、昨日からちょっと風邪をひいたみたい、
みなさまも寒暖差が激しいのでお体をご自愛してくださいね!
by sadafusa (2018-10-29 12:13)
ちょっと探すのに苦労したので、貼っておきます。
オープニング
https://www.youtube.com/watch?v=UNVFKXWcOQs
エンディング
https://www.youtube.com/watch?v=QV7FhtT6SIc
いわゆる声楽って声で歌っていないのが、
この場合、映像の絵と非常に合っています。
ディズニーは実力ある歌手が
力強く歌っている場合が結構多いですが、
こういうのは日本独自かなぁって思っています。
そこが非常に好きです。
by sadafusa (2018-10-29 13:07)
「ミスター・サマータイム」
懐かしいな、と思われた人もいるんじゃないかな。
きれいにハモれるといいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=u9s4XKAmf9I
by sadafusa (2018-10-29 18:30)
この記事を拝見して、心の底から感動しました。私は来年大学生になるのですが、中学の頃に初めて「シリウスの伝説」を観てアニメーションの美しさや物語の儚さに胸を打たれ、こんなに素晴らしい作品が存在したのかと驚き、またこの作品に出会えたことをとてもうれしく思いました。
情緒溢れる言葉で、作品の世界観を余すところなく表現している当記事には感服します。
しばらく観ていないけれど、今度機会があったらまた鑑賞したいと思います。
by 名無し (2018-12-02 21:20)
名無しさま(笑)
コメントありがとうございます。まだ高校生ですね?
わぁ、お若い。こんなフレッシュな方にコメントいただけるなんて
とっても嬉しいです。
「シリウスの伝説」本当に美しいですよね。
これは日本人ならではの感性だと思います。
また、遊びに来てください。
by sadafusa (2018-12-02 21:33)