燃ゆる女の肖像 [読書・映画感想]

今年はコロナのせいで年末年始といえど、めったに人とあうこともないし、
つまらないので、映画ばかり観ています。

とはいっても、ハリウッド製の面白そうなものは全く上映されないので、
最近はヨーロピアンで芸術性の高いフィルム系のものをよく見ています。

今回観たのは、『燃ゆる女の肖像』という映画。

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この映画は、評価が高くてですね、なんでも2019年・第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したという作品だそうです。

確かに非常に映像は美しく、繊細な女性の気持ちを描いた作品として、秀逸なのかなとは思うものの、
何ていうかな、同性愛について描かれたものなので、ちょっとそこらへんはわかんなかったというか、私には共感できなかった部分がありました。


あらすじをさらりといいますと、時代は18世紀、解説にはそれだけしか書かれていないけど、女性の髪型や服装、そして男性がまだ三角帽を被っているのを見ると、多分時代は1750年代ぐらいじゃないかなぁというのが、私の思うところです。

ある女性画家がブルターニュの小島から仕事の依頼を受けます。
ブルターニュって言ったら、フランスの北西のほうで、イギリスと海峡に挟まれているところで、タダでさえ、ブルターニュってどえりゃあ田舎なのに、さらに島ってことだから、それがどれだけ、不便なところかが推し量られるよね。

劇中では、島のお城に住んでいる奥様から、娘をミラノに嫁に行かせたいので、肖像画を描いてくれって依頼されたんですよね。

でも、そこにはいくつか問題があったのです。

このお嬢様はつい最近まで修道院ぐらしをしていました。
貴族の娘が適齢期になるまで修道院で育つというのは別段珍しくもないのですが、実はこの結婚話というのは本来彼女に来た話ではなく、彼女の姉にあたる娘にもたらされた話なのですね。

ですが、おそらく結婚相手のミラノの男性はひどく年が離れているかなんかで、(おそらくベルばらのシャルロットのように)姉がその結婚を嫌がり、世を儚んで自殺してしまったのです。それで本来は一生修道院にいるはずの妹のほうにお鉢が回ってきたというわけ。

で、観ているこっちは妹娘って十五、六の少女なのかなって思うじゃないですか。

しかし、実際に女性画家が会ったお嬢様って、結構おばさん臭い、とうのたった女性なんですよね。
おそらく当時の感覚で言えば完全に行き遅れの年齢なんだと思います。

なぜ、こんなふうに一人しか結婚できないのかといえば、恐らく彼女の家は貴族なんですよ。
だけど、ひどく貧乏なのよね。だから二人も結婚させられなかったんでしょう。
要するに持参金が一人分しか用意できなかったというわけです。


それが証拠に、お城もボロボロだし、食事もひどく質素だし、
召使いは一人の少女しかいない。


行き遅れの歳で娑婆に急に戻されたお嬢様は、ひどく頑固で扱いにくいんですよね。

彼女もいまさらミラノにお嫁に行くのは嫌なんです。
だから、母親は一計を案じ、彼女の散歩に付き添ってそれとなく観察して
肖像画を描いてほしいと頼むのです。


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女性画家のほうも、お嬢様と一緒でとっくに行き遅れの年齢ではあるし、また画家と言っても、女性はまだまだ世の中に進出できない時代であるし、結構苦労しているようです。

そして何回か散歩しているうちに、ふたりは除々に気持ちが打ち解けてきて、親しくなっていくんですね。

で、突然、レズビアン行為ですよ。

日本人の私が見ていると、「え、なんで急に?」と思うのだけれど、




この時代の女性同士の愛って、今の同性愛とはちょっと違うんですよね。
彼女らだって、できるものなら自由恋愛したいです。
でも、世の中がソレを許さないんですよね。
バレたりすると、女性だけがそしりを受ける。
罪というなら男だってあるはずなのにね。

リスクは常に女性側にあり、下手をすると妊娠という決定的な不名誉を負ってしまう。

実際、劇中でも島の男性と恋愛していたメイドが妊娠してしまい、どうしようもなくなって、村の堕胎専門の女に堕ろしてもらうシーンもあります。
そのことに対して、女性画家もお嬢様も同情的で、「女って辛いねぇ」って態度なんですよね。


ここでちょっとね、プルーストの『失われた時を求めて』の後半に出て来るヒロイン、アルベルチーヌを思い出すのですよ。







消え去ったアルベルチーヌ (光文社古典新訳文庫)

消え去ったアルベルチーヌ (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/05/13
  • メディア: 文庫





アルベルチーヌは、主人公マルセルの愛人でした。アルベルチーヌは聡明でものすごく美人だったけれど、両親が早くに亡くなってしまい、持参金が全くないのです。
で、親戚のおばさんにお情けで女学校だけは出してもらったのだけれど、つまるところ、彼女はこの先、一生、金持ちの子供の家庭教師をして行きていかなきゃならなかったのですね。

全くの庶民だったら、自由恋愛もできるのだけれど、なまじっかいい家に生まれてたりすると、それもままならない。

こういう女性たちってとても孤独なんですよ。
それで、こんなふうに人恋しさのあまりにレズビアンに走ってしまうものだったらしいです。
アルベルチーヌは、身寄りが全くないので、DVのマルセルの体の良いおもちゃで我慢していたのですが、あるとき耐えきれなくなって、マルセルの家から飛び出して行って、その後、事故死するんですね。
で、マルセルはアルベルチーヌの死後、彼女が本当にレズビアンだったのかどうか、確かめようとするのです。(そんなことどうだっていいだろう?って読んでいて辟易するのですが)


この女性画家とお嬢様の間にも、そういう孤独な者同士、温かい肌にふれあいたいという欲求がわいてきたように思えます。



~~~~~~~~~~~~~~~~~

で、まぁ、この映画のタイトルは『燃ゆる女の肖像』というくらいだから、絵が結構大きなモチーフになるわけよ。

でさ、時代はロココなわけでしょ?
だけど、描かれた絵が全くロココっぽくないんだな。

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全くのリアリズムっていうかさ、クソ真面目な絵だと思うんよね。
貧乏なのは解るけど、本当にきれいなレースひとつ、アクセサリーひとつつけていない。


ロココって、何ていうかな、この時代独特のコケッティッシュな可愛らしさが求められると思うんだけど、それも皆無だよね。もっと骨格は華奢で、肌はやわらかそうで透き通るように白くって輝いていて、目はキラキラと輝き、ほっぺたもピンクに描かれてないとな~と観ていて思ったわw

こんなふうに描かれたら、依頼主は激怒しそう。
どこの百姓女よ、って思われそう。


ロココ時代を代表する画家は、ちょっと思いつくところを言えば、ワトーとかブーシェとか、あるいはナティエ、ルブラン。

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やっぱり、似せて描いたとしても、人間というのはどこまでいっても、自分の生きている時代の美意識から逃れられるものではないな~と別の面から観て、感心しました。

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Yui

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

こんな映画があるのですね。
sadafusaさまのように流行の洋装に詳しい方が見るといっそう面白いでしょうね。
ロココの頃って服装学的には一つの頂点なんでしょうね。
修道院で周りに女性しかいなかったら、愛と情熱が同じ女同士に向かうのも私は納得しますね。私は高校と大学が女子校で女子寮にも入っていたので男性が全くいない世界でもそれなりに楽しくやっていけると思います。
当時の行き遅れって多分18から22くらいをいうんですよね?貴族の中で身分が高すぎて結婚する相手がいないという例もあるんですよね。本当に周りに振り回されてお気の毒です。

ルブランとか、革命があって亡命して、その後の方が自由だったと思う。ロシアに亡命して夫と子どもたちのために貴族のお嬢様の肖像画を描いていた方が絵に本気度があって素晴らしいです。

人生、ふとしたことから自由を手にすることがあるのだなと思います。
by Yui (2021-01-02 16:04) 

sadafusa

Yuiさま

あけましておめでとうございます!今年はぜひぜひ直におめにかかりたいと思っております。

さて、この映画。
見ていて思ったのがやっぱ、日本人とフランス人の差、ひいては身体の貧弱な東洋人と西洋人の差なのかなって見ていて思っちゃったんだよね。

孤独な者同士、心を通い合わせるってことはたぶん、世界喉の世界にもあるとは思うんだけど、日本人では、『お姉さん」「妹」のように仲が良くなっても、いきなりこんな身体の関係に離れないような気がする。ま、それは私が結構古い人間だからっていうのもあると思うけど。
向こうの人は本能からくる性衝動が激しくて抑えきれないのかなぁ、っていって、日本人がエッチじゃないっていっているわけじゃない。
日本人ってこう、別な意味で執拗なんだけどね。

海外で作られたウルトラマンを見ていても、おんなじことを思ったなぁ。ウルトラマンと怪獣が変身している女性と、視線がねっとり絡み合うってシーン、結構多かったな。

いい悪い、じゃなくて、習慣とかものの考え方がなんとなく、地域によって違うんだろうなって思ったんです。

ルブランさんたちのように亡命した人たちは本当に大変だったろうね。ポリニャックさんはウィーンですぐに死んじゃったみたいだし。

フランスって今回のコロナみて改めて思ったけど、血の気の多い国民なんだね。やっぱ、ラテン民族なんだわ。
by sadafusa (2021-01-03 09:48) 

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