見知らぬ他人の親切が心に沁みる 『NY 親切なロシア料理店』 [読書・映画感想]

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このお正月は、全くもって映画三昧で、ず~っと『京都シネマ』に通っていました。
なんかね、普段なら007とかなんたら殺人事件とか超ビッグでゴージャス&リッチな映画が楽しめるはずなのに、みんな延期なんだもん。

かといって、私もう、若い人が楽しめる映画を面白い、と思えるような年齢はとっくに越したような気がするんだわ。
しかしそれも食わず嫌いで、食べてみたら案外美味しかったってなるのかもしれないけど、今、それほどまでに食指が動かないっていうか~。


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前フリはこれぐらいにしておいて本題に入りましょう。
私は見たい映画のジャンルのひとつに『お料理がおいしそう』っていうのが好きなんですよ。
ロシア料理って、「なに、それ美味しいの?」って思われる人も多いかも知れないけど、
実はフランス料理のコース料理っていうのは、ロシアから入ってきたものなの。
それまではぜ~んぶお料理をお皿に並べて食べていたのね。

だけど、オードブルならオードブル、温かいスープなら温かいスープとひとつひとつお皿を持ってくるという習慣を持ち込んだのはロシアなんだよね~。

それでもって、ロシアって意外と美食の国でもあるんですよね。
やはり強い権力を持っている皇帝がいましたからね、ロシアは。
そういう国は宮廷が栄えていて、必ずお料理を供されるものだから、必然的に洗練されたものになりますね。


さて、ですからタイトルを見て、「美味しそう』と思ったのですが、
お料理はこの作品の場合、全くの主役ではありませんでした。
ロシア・レストランは出てくるには出てくるけど、ちらっとだけです。

この話はですね、実はDV被害に遭ったまだ若い母親とふたりの息子がですね、命からがら夫から逃げてNYで生き抜いていくかって話なのです。
ほんわかとハートウォーミングで童話みたいな話なのかと思ったら、案外重たい話でした。

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この話を見ながら、アメリカって人権とかいろんなシステムが日本よりも一歩も二歩も進んでいて、夫によるDV被害なんて簡単に逃れるんじゃないかなぁって思っていたけど、

アメリカって一口に言っても広く、いろいろな州があるってことです。

アメリカの大統領選とか見ていると、トランプは共和党で、バイブル・ベルトってところからものすごく指示があるというけど、バイデンなんかは民主党なので、非キリスト教徒にものすごく支持されていました。

まぁ、ものすごく保守的なところと、進歩的なところが混じっているのがアメリカ。

たしかにNYなんて、いろんな人種やLGBTとかいろんな人にとっては寛大な土地だとは思うけど、
また逆にカトリックとか筋金入りの清教徒ばっかり澄んでいて離婚さえ許されなくて、またDVなんかも父権の象徴だとして女や子供にそれを無理やり認めさせていると言うか、黙認しているところもある、ということですね。

そしてこの映画のとっても怖いところはですね、
夫に暴力を受けたのなら、シェルターに入ればいいじゃん?って思うでしょ?
でも、夫は地元では優秀な警察官で通っていて、そのネットワークを使っちゃうとすぐに
居所がバレて引き戻されるってことなんです。

ですから、この奥さんと子供はなんとかNYにたどり着くまでは車で逃走できたんだけど、
お金もないし、クレジットカードも使えないし、身分証も使えないので、
本当に悲惨で、下の子なんか夢遊病か夜驚症らしく、夜フラフラと外に出ていってしまって、
低体温になったりして死にかけたりしたんですよね。


で、もう万事休す、これは居所がバレても病院へ行くしかない!ってところで、本当に見ず知らずの人々が、何人も出てきて、その哀れな親子を残酷な男から見つからないように、命がけでかばってやるのですよ。
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ソレはなぜかといえば、その助けてくれた人々も、おそらくはマイノリティなのです。
移民であるとか、犯罪歴があるとか、おそらく学習障害だったとか。
だからこそ、彼らは切羽詰まった親子の切なさ、悲しさが解るのです。

この映画の邦訳は『NY 親切なロシア料理店』ってなっているけど、
本当は『Stranger's kindness』つまり、「見知らぬ人の親切」なんですね。


深い、深い映画でした。

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余談ですが、この映画のロシア料理店ですが、昔はNYでも指折りの名店だったのですが、リニューアルもせず、そのままず~っとやってきたので、今では古臭くて全くイケてない店なんですね。
黄ばんでしまった地模様入の絹の壁紙、汚れて傷んでいる真紅のベルベットのカーテン。そしてロシア教会に吊り下げられているような立派なシャンデリア。かつては誰もが感嘆して見惚れるほどゴージャスでキラキラと輝いていただろうけど、今は落ちぶれて見る陰もない。

でも、私はそういう一種の胡散臭さ、汚さっていうのも案外魅力的だと思っています。

昔、東京タワーの下にボルガというロシア料理の名店がありました。
東京タワーの下から見下ろすと、そのすぐ真下におもちゃのような玉ねぎ頭のキューポラが見えたものです。

ここはロシアがソ連だった時代、KGBがたむろしていたところだとも言われ、一説によるとこの店とKGBの本部は地下で通じているなどとも言われていました。

全く映画の内容とは関係ないけど、映画を見ながら、そういった昔の思い出を懐かしく思い出していました。


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Yui

sadafusaさま、おはようございます。明けて新年、私は一昨日何故かお腹を壊し、寝込んでしまいました。コロナとは関係ありません。東京は緊急事態宣言宣言がでるところでたいへんです。
ロシアのレストラン、いいですね。映画もシビアだけど面白そう。DVって自分が1番信用してた(しているはずの)人からひどい目にあるのだから辛いことこの上ないです。夫や父など本来そんなことあるはずがない相手からひどい言葉や暴力を浴びるのですから。

ところでsadafusaさま、前に私に勧めてくださったロシア人の料理人ユリア先生のことを覚えていらっしゃいますか?私、あの時sadafusaさまの推薦で行ってきたんですよね。その後ほぼ強制的に入らされたフェイスブックで彼女の案内がたまに流れていたのです。先日、FBの動画で服部先生にユリア先生は「あなたは日本人みたいになっちゃったね」と言われていました。
料理人の世界も難しいかと思うのですが、彼女には無事に店を持つまで頑張って欲しいです。
by Yui (2021-01-07 10:06) 

sadafusa

Yuiさま

コロナワクチンもできたのに、日本は却ってヤバい状態になってますね。
この作品、旦那がDVというのも大変なんだけど、奥さん自身が貧困家庭に育って、まともに教育を受けておらず、普通なら高校生ぐらいの歳にカーテン屋のアルバイトをしていたのだけれど、ある時、盗みがはいると真っ先に奥さんが犯人にされてしまったという経緯があるのです。

で、奥さんは大変な美人だったので、そのとき立ち会った警官が一目惚れ。それがDV旦那だったというわけ。

教育って本当に必要です。
別に高学歴になる必要はないけれど、教育があれば自分で考え、自分で調べ、誰に助けを求めていいかわかるもの。
教育のない人は、今自分が陥っている状態を言葉にして他人に説明するのでさえ、難しい。

ユリア先生、覚えてますよ。すらっとしていて美人な先生ですよね。
彼女の作るロシア料理はとても洗練されているし、ヘルシーだと思います。

彼女とうちの娘ってほぼ同い年だと思うんですよ。
全くジャンルは違いますが、なんか重なるところもある。

まぁ、どの世界も大変です。確かに彼女にはいつか、素敵なロシア料理店を開いてほしいですね。絶対に食べに行きます。
by sadafusa (2021-01-07 18:52) 

Yui

貧困はなんにせよ物事を悪化させますね。発達障害でも豊かな家庭で注意深く子どもをみる人がいれば悪化しないですが、一つ貧困になるとあっという間に悪化します。DVもそうですよね。

教育というより教養かもしれませんね。自分にどんな問題点があるか説明できてどういう助けが必要なのか言えることですよね。

美人と貧困というのも事件が起きやすいところなのかもしれませんね。しかしその警察官、外では良い顔ができるところをみるとモラルハラスメントなのかもしれません。こういう人ってどうやって更生させるんだろう。なかなかハラスメントを認めませんよね。


by Yui (2021-01-08 13:51) 

sadafusa

DVっていうのも、心理学的に言えばひとつの愛着障害なんだそうです。DVになる人の家庭にもなにか機能不全というか、なんかそういう不穏なものがあったんでしょうね。

ああ、美人と貧困、本当ですね。
美人じゃないとさほど問題は大きくならないのかも知れませんが、美人ってやっぱり男に狙われやすいしね。こいつはイケルと思ったらとことん搾取するのがDVだったりするから。

そうなんですよね、なんか最近のトランプ大統領の言動見ていると、やっぱり彼はこういう警察官タイプの人間の親玉だなって気がしてならない。

なんであんなにしっかりどこでも選挙票の集計所に監視カメラがしっかりと設置してあるのに、「違法だ」とか言ってるんでしょうね。なにが「スットプ!ザ・スティール」なんだろ。
自分がデモをけしかけておいて、謝るでもない。
さすがの共和党員もみんな呆れ果てて、彼のブレインを辞職する人多数。
みんな「歴史に汚点を残した」
トランプ大統領は辞職させられるかもしれないし、ニクソンみたいに、国葬はしてもらえないかもね。
by sadafusa (2021-01-09 13:40) 

Yui

うちの父はトランプ大統領のような性格なんですよー。小さい時からガキ大将で自分が1番えらいと思っているんですよね。母のことが好きで結婚まで苦労して持ち込んだんですよね。世界で1番母が美人だと思っていて、母が亡くなった今も母によく似たルノワールの裸婦像のポートレートを飾っていたりします。
こんなふうに書くと良い父と思われるのですが、実際はとんでもないです。暴力までは行きませんが暴言は山程、中小企業の社長なので言いたい放題やりたい放題です。全然、自分が悪いと思ってない!一種の脳の病気だと思います。ただ、憎めない憎まれない性格なので人には愛されるんですよね。幸せな人だと思います。
by Yui (2021-01-09 20:23) 

sadafusa

いいじゃないですか、トランプ大統領なら。

あの人、アメリカの知的階級からは嫌われていますが、ですが実際、あの人の政策のおかげでNY・ダウが上がってアメリカの経済は潤ったんですよ。
まぁ、バイデンはクリーンで弱者に優しい政治をするつもりみたいだけど、トランプのような強力なリーダーシップが取れるかどうかはわからないもんね。

いいじゃないですか、お父様。
自分の力で会社を興されたわけでしょ?
一国一城の主じゃないですか?
それにお母様を死ぬまで愛しておられて、今でもずっと愛されておられるわけでしょ?
いいじゃないですか、愛妻家じゃないですか。
自分が「この人!」と思って妥協せずに攻めていってその愛をゲットされたわけでしょ?

私からみたら眩しいほど、羨ましいご一家です。


それにひきかえうちの父は、地方の素封家の生まれで、当時の田舎の人間にしては東京も大学も出て、みてくれもよかったのですが、

お金にも女にも、モラルにもてんで甘い、無責任な人でした。


私は幼稚園から高校までずっと公立できましたけど、
父親は日頃贅沢三昧していても、自分の稼ぎと父親としての責任で、娘を専門学校か短大か、四大に入れなきゃならないかも知れないなんて考えたこともなかったような人です。

人当たりだけはよいけど、そんなふうに無自覚に放埒に生きてきた人間はたとえ自分の父親といえど、敬愛してもいないし、心でも懐かしいとさえも思いませんね。

娘にも息子にはこういう人間にだけはなってはいけない、と口を酸っぱくして言い続けてきたくらいです。笑




by sadafusa (2021-01-10 16:20) 

Yui

ああ、そういうお父様だったのですね。
うちも飲む打つ買うはしなかったけれど
独立して会社を作ってからはいつ潰れるか
わからなかったから、
潰れたらおまえ(私)は看護婦(当時なので看護師じゃなくて看護婦)おまえ(弟)は自衛隊な!と言われて育ちました。
私も弟もそれがイヤで勉強したようなものです。
高学歴は会社が潰れないでくれたおかげです。


それからねー、私、初めてこないだ見ちゃったんですよ。
母に似たルノワールの裸婦のポートレートの下に風俗の雑誌とそのての小説が隠されているのを!
イヤ、責めるつもりはないです。86歳でも現役なのね、サスガとも思いました。なんとも生生しいのがツライですが。愛妻家でもその機会あれば動くのねと思いました。(男のサガ?)

父のダメなところは後進の育成がまるでダメです。跡継ぎとか会社の幹部を作るところとかもう壊滅的にダメで失敗しています。父の弟とか私の夫とか息子(私の弟)とかもう全然ダメ、人間関係まで破壊してしまっています。自分が小山の大将だからね。
by Yui (2021-01-10 17:42) 

sadafusa

>潰れたらおまえは看護婦、おまえは自衛隊な!と言われて育ちました

これね、お父様が正しいです。商売してるってことは常にそういうリスクを抱えているってことだもん。まさかのときには、そういう覚悟が必要だよって子供に行っておくのって大事じゃない?

うちの父は夢のようなあわあわしたことばっかり常日頃語って、娘をその気にさせておだてておいて、いざとなったら何一つしてくれない人でしたよ。
そんな人より百倍マシ。

それに看護師も自衛隊員も、一生できる手堅い仕事だと思います。向き不向きはあるけど、決して食い離れがないと思うし。


>こないだ見ちゃった

こんなの男の人あるあるですよ。
いっちゃあなんですけど、人間といえど動物じゃん、子孫を残せよっていうDNAの掟っていうか、本能からは逃れられない生き物じゃない?
それに、性は生ですよ。生きることですよ。生命力が強い。
だから会社を興して一家全員を食べさせることができたんです。
俺様でも、仕方がない。経営者ってそんなものです。


こういうの、肉親だから生々しいのかもしれないけど、それが妄想の範囲を逸脱していないから、それでいいんです。
うちの場合は、逸脱していたからね。
そんなんから比べりゃ、100倍マシ。

お母様がタイプ何だから、お母様に似ている絵姿っていうのは納得です。そこで、なんか全然別のタイプだったりすると、却って私は「お母さんのこと、すきじゃなかったんかな~」って不信感持ちますけど。

まぁ、後進が育たないっていうのも、仕方ないですよね~。

でもさ、弟さんやご主人も男気があっていいじゃないですか。
ダメなやつは、どこにも行けないで、自分でも何もしないで、卑屈になってお金だけをもらおうとしますからね。


by sadafusa (2021-01-11 17:20) 

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