三人三様の真実 『最後の決闘裁判』 [読書・映画感想]

みなさん、こんにちは。sadafusaです。


本当にお久しぶりです。

さて!ですね。今回は前振りなしです!

今日はマット・デイモン主演、リドリー・スコット監督の
『最後の決闘』をロードショウにて鑑賞して参りました。

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ただですね、


この映画をこれから劇場で見たい人、経過や結末が知りたくない人は注意が必要です。 ネタばれがあります。 何事も自己責任でお願いします

では、あらすじに参りましょう。

舞台は14世紀の後半、フランスはノルマンディ。
この頃のフランスというのは、ぐちゃぐちゃの時代でして、
フランスという国もですね、今のようにきちんとまとまった国では、ありませんでした。

南フランスで人気のプロヴァンスも別の国。ブルゴーニュ公国も別の国。
あまつさえ、ちょっと前にフランス王の家臣であるノルマンディ公がイギリスの国王に収まってしまうという、ハチャメチャな時代でした。


このころの日本はと考えてみますと、時代は室町時代に移っているわけですね。
まぁ、建武の新政をしようとした、後醍醐天皇が隠岐の島へ島流しにあったりすることを考えると
世界ってこういう野蛮な時代だったのかなぁ~っていう気がします。



簡単な俯瞰的概要はこれくらいにして、要はどういう事件だったかということですね。

この話には、主要な三人の人物がいます。

ひとりはジャン・ド・カルージュ。
ノルマンディの地主ですね。身分はエクスワイア(准騎士)
これはマット・デイモンが演じていました。



もうひとりは、ジャック・ル・グリ

この人もエクスワイアなのかな。
しかし彼は次男でしたので、
家督は継げず、そのため聖職者になる道を一旦は志はしたのです。
が、性に合わずノルマンディの一番の権力者であるアランソン伯爵ピエール二世の家来となるのです。

で、一言添えると彼は聖職者を志しただけあって、
彼は教養があってラテン語も読め、
そして何といっても超絶イケメンだったのです。
実際この役を演じたアダム・ドライバーは身長が190センチほどもあり、
かつ、どこか往年のキアヌ・リーヴスを彷彿とさせるところがありますね。




三人目の人物は
カルージュの妻、マルグリット


マルグリットはですね、金髪の大変な美女で、英語のフェア・レディということばは
こういう人のことを言うんだろうなって実感しました。
しかも彼女は歴とした貴族の娘なんです。
ですから、貴族の娘らしく、きちんと教養もあります。

ですが、悲しいかな、彼女は貴族の娘でも没落した貴族の娘なんですよ。
だから十分な持参金がないため、
こんな無教養で身分も貴族とも言えないカルージュのところへ嫁がなくてはならない。


ところが事件が起こるべくして起こった。
なんとカルージュがパリへ行って不在の中、
ひとり屋敷の留守を守るマルグリットの中にル・グリがやってきて、
嫌がるマルグリットを無理やり強姦してしまうのです。

ル・グリによって屈辱を与えられた彼女は、夫であるカルージュに、
ル・グリに強姦されたことを正直に告白します。

義憤に駆られたカルージュは正義を知らしめすため、
賄賂や汚職でまみれた自分の直属の主であるピエール伯爵に告訴するのではなく、
パリに赴いて王に自分の妻が友人によって恥辱を与えられ旨を訴えるのです。

しかしながら、事件が起こった時にはマルグリットの姑がわざと、
家の使用人を全部ひきつれて外出してしまったので、
現場を知るものがいないのです。


マルグリットの無実を知るものは、神のほかはいないのです。

で、ですね、そこで決闘裁判ですよ。

神は真実を知っておられる。
だから正しいものの味方です。
神は常に正しい者を守護します。反対に偽証したものは
死の鉄槌を与えられるのです。

ま、なんていうのかな、日本の「くがたち」と一緒だよね。


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で、この物語はですね、
三部構成なんだよね。

三人の視点で同じ話が語られるわけ。
しかし、そこにはかなりの齟齬があるんだよね。

もちろん、ル・グリだってバカじゃないです。
自分が罪を犯したと思って、自分の名誉と命を懸けて戦うわけないじゃないですか。
彼にだってそれなりに言い分があるんですよ。


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カルージュ視点では、カルージュ本人は常に正義の人です。
神を重んじ、筋の通らない曲がったことは嫌います。

だから、つねに退廃的なアランソン伯爵に追従している、
ル・グリのことを軽薄な卑劣漢だと軽蔑していますね。

今回の美女の誉高い自分の妻を強姦したのだって、いかにもル・グリのやりそうなことだと
カルージュは憤り、彼は決闘裁判へと持ち込むのですよ。



ところが、こんどはル・グル視点で物事を見ることになります。
そうなると、世の中の景色がまたガラリと変わる。
ル・グリは親がエクスワイアであったとしても次男ですので、自分の財産がありません。
ですから、己の才覚ひとつで世の中を渡っていかなきゃならないのです。

ですから、字も読めず、親の残した既得権益にしがみついているカルージュに対して
覇気のないヤツ、と心底バカにしています。

またカルージュの美人妻のマルグリットに対しては、犯行に及ぶまえ少しだけ
ラテン語を交えて当時はやっていたロマンスに対する文学談義(という大したもんじゃないですけど)
をして、「あ、この女は俺サマに気があるな」という大いなる誤解をしてしまうのです。

なんなんでしょうね、この変な自信。


で、どこからかカルージュの不在を聞きつけて、
ひとりで留守を守るマルグリットを騙して門を開けさせ、
嫌がるマルグリットを力づくで犯すんですよ。

それでもマルグリットは「お願い、お願いです。どうぞ赦してください。それは罪です」
って言ってるのにさ、「あ、こいつ、俺に感じているな」とか
また一方的に自分の都合のいいように解釈して、
ふたりで歓びを分かち合ったと、ものすごい勘違いをして
意気揚々と帰っていくんですよ。

いやぁ、この人、自分が美しい貴婦人と秘密裏に不義を共有した
ランスロットとかトリスタンになったつもりだったのでしょうか???
めっちゃおめでたい人です。



三人目が、被害者のマルグリットの視点です。

これがねぇ、本当に辛辣極まりない、真実だと思いますね。

夫のカルージュは、これからまさに結婚式をしますって段になっても、
持参金として持ってくる土地がついてない!とかいって激怒するんですよ。
花嫁を前にして。

で、初夜の晩ですが、
カルージュの記憶ではまだ男というものを知らない妻のために
大変に気を使って、デリケートに、そして優しく
その夜を過ごしたということになっているのですが、
妻側の真実は違います。

怖がる本人をいきなり押し倒して、花嫁の気持ちは無視して
自分だけやることをやって終わったらさっさと寝てしまうんですね。
これって強姦と何にも変わらないじゃんよと思うのね。

で、妻のマルグリットは夫は男として女に全然優しいところもないし、
ものすごい粗野でしかも目先の欲にばかり囚われて、
深謀遠慮ってことができない人なんだってことが早晩わかってきて、
新婚にしてすでに結婚生活なんか破綻しているんですよ。

ただ、当時というのは妻は独立した人権なんかなくて、
あくまでも夫の庇護の中にあり、隷属物だという認識でしたから、
相変わらず、一方的にマルグリットは夫の性欲のはけ口にはされていましたが…。

しかしあるときマルグリットは
アランソン公が主催するなにかの集まりに夫と一緒に出掛けました。
こういうとき、使えるものは何でも自慢するのが人間のサガ。

マルグリットがめちゃくちゃ美人ということだけは本当だったので、
このときとばかり、集まる男どもに見せつけるため、
美しいドレスを新調させ、美しい金髪も真珠のピンをあしらいながら
きれいに結ってその場に臨むのです。


おお、と男たちのどよめきは止まりません。
カルージュはいい気になって、ル・グリにも挨拶させました。

その後、マルグリットはル・グリとラテン語を交えて、二言三言、会話はしました。

でも、マルグリットは
「この人はそれなりに教養はありそうだけど、なんか嫌味な人だな」
ぐらいにしか思ってなかったんですね。

しかもル・グリにはいろいろとつきまとう女の様々な噂がありましたので、
賢明なマルグリットはそのことも警戒していたのです。


ああ、それなのに、それなのに!


マルグリットはそれでも正直に自分の身に起こった不幸を
夫に話しました。何も自分にやましさがなかったからこそ、
秘密にしなかったのです。わかる、この心理?

するとカルージュって「お前が誘ったんじゃないだろうな?」って
ものすごい力でマルグリットの首を絞めにかかるのです。

ひどくない? 
本当にひどい。
嫉妬心だけは人一倍なくせに、自分の妻のことなんか
これっぽっちも信用なんかしてないんですよ。
愛してなんかいないんです。


マルグリットはですね、夫に共感してほしかったんですよ、単に。
「こういう恐ろしい男だから、もうあの人に私を近づかせないで」って。
そして、どういうわけか長らく恵まれなかった子宝が、恵まれてしまう。


昔だし、腹の中の子がどっちの男の胤なんかはわからないですよ。

しかし、とどまることなく激昂してしまった夫は
行くところまでいかないことには、収まらないんです。

それで自分の名誉と命を懸けた「決闘裁判」でお互いの是非を決めることになったのです。
で、当時の教会法は告白した妻のほうも、もし夫が負けることがあったなら、
自分も偽証したことになり、身ぐるみぜんぐはがされ、
公衆の面前にて火刑にされることになるのですよ。


元気な男の子を産んだマルグリットは悔しくて悲しくてなりません。
「この子は下手したら、不名誉な両親の死を背負ったまま、
ひとりで生きていかなければならないのよ。

どうしてもうちょっと自分を抑えることができなかったの?」


初めて辛辣に夫を責めますね。



しかしすでに賽はふられたんですよ。

パリのとある修道院の裏庭に決闘場を作り、カルージュとル・グリは死闘を繰り広げます。
ここらへんはさすが、リドリー・スコットだなぁ、めっちゃ迫力のあるシーンですよ。
存分にその映像美を堪能してくださいまし。


結局のところ、辛くもカルージュが勝つんですよね。
マルグリットの正義は神によって証明されたんですよね。


民衆に祝福されて凱旋するカルージュ夫妻…ところで終わるんですが、

しかし最後のテロップが効いていた。

「その後すぐにカルージュは十字軍に参戦して二度とフランスの地に帰ることはなかった。
 が、マルグリットはその後誰とも再婚することなく、裕福なまま幸せな生涯を送った」


皮肉が効いていますね。
人の心を読むのが格段にうまく、農地経営も合理的にできるマルグリットは
無能な夫よりもはるかに蓄財能力があったということです。

夫の子供か、ル・グリの子かはわかりませんが、それでも息子は自分の子には違いありませんから
ふたりで楽しく生きていったんでしょう。



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このようにですね、人間とは
同じものを見たとしても、すでに心にはバイアスがかかっていたり、
また自分自身を過剰評価したりして、すぐに自分を正当化したりするもんなんですよね。


人間は「自分はもしかして間違っているかもしれない」ってことを
前提に生きていくことができれば、
少なくともこういう間違いはぐっと少なくなるかもしれないです。

しかしそれを認めてしまうと、人は案外生きにくいものかもしれず…。

なかなか難しい問題だなぁと視聴後は深いため息が出ました。


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さらに話を詳しく知りたい方は、原作もあります。
私も今、読書中です。










最後の決闘裁判 (ハヤカワ文庫NF)


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