シャワートイレ [雑文]

わたしの家には古い、古い、ウォシュレットがありました。

もともとわたしの亡くなった父がジヌシだったので、
必要に駆られて購入したのですね。

買った後しばらく、実家は区画整理の対象区域となりまして、
家を大幅に改築することになり、トイレもウォシュレット一体形成型のものにしたので、
父が大型ごみのところに持って行ったのですが、
わたしはそれを見て、
「まだ使えるじゃん」といって拾ってきたのです。
それが今からおよそ30年以上もの話。

私は、その使いさしのウォシュレットを持って、東京の主人のもとへ
お嫁入し、その後、子供ができて京都に移り住むことになって
京都のアパートへ引っ越しする時もそのウォシュレットを外して持っていき、
その三年後、新居を購入して新しいトイレを設置したときも、
「あ、まだ使えるウォシュレットがありますから」と
しつこく使い続けてきた、愛着ある一品だったのです。

もうですね、30年以上も使い続けていますと、
「押す」というボタンのところが擦り切れてぼろぼろになって、
すごいことになっていましたが、
しかし、わたしは実を重んじる人間ですので、
要は、役に立てばよいのです。

しかし、こんなに遣えてくれたウォシュレットも長い年月には勝てず…。
ある日…。


先日、仕事から帰った主人を捕まえて、わたしは、厳かにこう、告げました。
「あの、ですね。悲しいお知らせがあります」
主人はそれを聞いたとたん、顔色が変わりました。
「そ、それは、どんな悲しいことなのですか?」
「あの、ですね、ウォシュレットさまがお亡くなりになりました…」

私としては発売当時、ウォシュレットって20万か30万ぐらしていて
とってもじゃないですけど、庶民の買えるものではないという、アタマがあったのですね。

たかが、オノレの尻ひとつにそんなに金なんかかけられるかと思いはしたのですが、
やっぱり長年の習慣で、あれがないと非常に気持ち悪いのですね。

わたしが深刻ぶって話したのにもかかわらず、それを聞くと、主人は急に笑顔を取り戻しました。
「あ~、なぁあんだ、そんなことですか! もうボーナスも近いですし、
 すぐに買ってあげましょう。
 たしか先日エディオンのチラシの中にシャワートイレもありましたよ」
と、さっそく電話して注文してくれました。
すると、翌日には工事の人がウォシュレットを持って、すぐに取り付けてくれました。

わたし、知りませんでした。昔、すごく高価だった、ウォシュレットも
いまや、二三万で買えるということを!

再び、我が家は平和が訪れたのです。


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