LOVELESS 不幸な一家の系譜 [読書・映画感想]

今日はこの本をご紹介しようと思います。





ラブレス (新潮文庫)

ラブレス (新潮文庫)

  • 作者: 桜木 紫乃
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: 文庫





桜木紫乃さん、初読みです。
これは夫さんが「非常に面白い大河ドラマだ」と薦めてくれたんですよ。

ラブレスは「愛(情)のない、愛されない、かわいげのない」と言う意味です。
じゃあ、もてない人間の物語なのか、といえばそうではなく、これは一種の機能不全な家の物語ですね。


今じゃ、当たり前に「機能不全」な家とか、「毒親」とか使われていますが、昔はそうじゃなかったんですよ。日本は親孝行が当たり前の国ですからね。
「今日まで生きてこれたのは、親があんたにおむつを替えてくれておっぱいを飲ませて大きくしてくれたおかげでしょ」って迫ってくる。

いや、自分が親になって思うのは、それはですね、自分が生み出した命に対しての責任がありますからね、それをするのは当然なんですよ。

子供に「育ててくれてありがとう」と言わせる親は、かえってどうかしていると思うんですよね。

たしかに子供を育てるのは、自分の時間やお金、労力を犠牲にしているところもあります。ですが、赤ちゃんは理不尽に天から降ってくるわけでも、地から湧いて出てくるわけでもない。
自分がちゃんと致すことを致した結果なんです。

そこをきちんと考えていないと大変なことになると思います。

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これは、そういうことを全く考えてないだらしない人間が親になったら、子供たどれだけ心的外傷を受けて辛い思いをするかって話です。


あらすじは簡単にいいますと、親子三代の話なんですよ。一世代目が大正生まれで生まれで、その次世代が昭和10年代生まれで、三世代が昭和40年ぐらいに生まれているのかな。だいたいそんな感じです。


主人公は百合江と里実という姉妹が主人公です。この人たちがいわゆる、二世代目で昭和10年ぐらいに生まれた人たちたんですよ。
彼女たちは北海道の道北の開拓村に生まれて育ったんだけど、非常に貧しい。しかも、ただ貧しいだけならまだしも、親がとんでもないのよね。
つまり、父親がアル中なんですよ。稼いだ分を全部、飲み代に替えてしまう。そればかりでなく、借金してまで飲もうとするんです。

もともと貧しいのに、このだらしない父親とそんな父親に逆らえもしない「自分」ってものをしっかりもってない母親に育てられたお蔭で、この姉妹はとんでもない辛酸をなめさせられることになるんです。

もともと百合江はものすごく向上心があって、努力家だったので、地元の高校へ行って、そして得意な歌を生かしたバスガイドになることを目標にしてました。
当時のバスガイドって、非常に華やかな女性の職業でして、今でいうスッチーさんのようなものです。

百合江はきれいな子だったし、頭もよかったし、もしバスガイドになれたら、一家安泰のはずなのです。ですが、この父親はこの貧乏から抜け出すための「投資」ってことすらしないんですよ。

昔の公立高校なんてどれだけお金がかかるっていうのよねぇ。わたしも公立高校でしたが、たしか一か月に学校に収めるお金は2000円だったような気がします。(ほとんどタダ)



しかし、こういう子供の向上心っていうのをすべて摘み取ってしまうんですよね。こういう親は。
父親は自分の借金の代わりに百合江を駅前の薬局にタダ働きの奉公に出すんですよ。

しかもあろうことか、薬局の主人というのは、若くてかわいい百合江に目を付けていて、奥さんがいないときに、乱暴してしまうんです。でも、百合江はドサまわり専門の旅芸人の一座の魅力に心を奪われていて、なにもかも振り捨てて、その一座に入っちゃうんですよね。

妹も里実も同じようによく勉強のできた子で、看護学校を出て看護婦になることが夢だったのだけど、当然、親はそんな金を持っているはずもなく、やはり散髪屋さんの奉公へ出すんですよね。

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ここまで読んでいると、ダメ親っていうのは、洋の東西を問わずみんなどこも一緒だなぁと思う。
例えば、ゾラの『居酒屋』とかトマス・ハーディーの『テス』とかさ。

みんな父(母)親や夫がだらしなくて甘ちゃんで、娘が身を売らなきゃならないような苦労をさせるんですよね。

わたし、なんでこんな親が生物的に自分の親だからって大事にしなきゃならないのかって思います。

親はまず、子供を無条件で愛することができてこそ、初めて親になれるもんなんですよ。
これらの物語は一般には当たり前と思われているようなことが、出来てないんです。
これが「愛のない」家庭、ラブレス、な家庭の悲劇の由縁ですよね。


その後、百合江は一座の中の男との間に女の子を設けました。
男は天才的な音感を持っていて、磨けば光るような才能の持ち主だったけれど、
やはり、生来の風来坊らしく、親として百合江と子供と一緒に堅気に暮らすってことができず、ふらっと行方をくらませてしまうんです。

ですが、百合江ははじめっからその男に父親としてどうにかしてくれるだろう、みたいな期待はまったくしてなかったので、一人でせっせと働くのです。

しかし、妹の里実がある縁談を持ってくるのですね。
断り切れなくて、その縁談を百合江は受けるのですが、この男がまたとんでもない男で、「ええかっこしい」で、分不相応な高級品を持っているんです。百合江はもともとこの男は資産家なのだと思っていたのですが、いやいやいや、全部借金なんですよ。

そしてそういう男の影には、たいてい息子である男が甘やかしに甘やかせてスポイルさせてしまった、どうしようもない母親がついているもんなんですよ。
この母親は自分の息子が、ダメなところを見ようとしないのね。そして必ず、嫁である百合江にあたって、すべて百合江のせいにする。

なんかこういうの読むと、ダメ男がどうしてダメ男になっていくかっていうのは、その母親次第だなぁってつくづく思う。
マザコンになるように仕向けているんだもん。

反対に立派な母親っていうのは、自分の息子がどんなにグレていても、放置しているように見せて、きちんと見守っている。例えば、北野武のお母さんのサキさんとかさ。武が明治大学中退して浅草のフランス座へ行っても、文句も言わずじっと耐えて見守っていたんですよ。だからこそ、お母さんが亡くなられた時、武が号泣してしまうんですよ。やっぱり、その差かなって思う。



そして、このトンデモ男が百合江の命より大事な娘を、借金のカタにやくざに売っちゃうんですよ!

いや~、こういう男が一番怖いなって思います。表面上は男前で、口当たりの柔らかいことばで懐柔してくるんだけど、こういう恐ろしいことを、別段罪の意識もなくやっちゃうんですよね。

百合江は、必死になって自分の娘の行方を探そうともし、その男に教えるように迫りもするんですけど、しれ~っとして口を割らないんです。

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結構太い本なんですが、あっという間に読了してしまいました。

途中、途中に「これはこういう事情を目の当たりにしてないと書けないだろう」と思えるような描写がでてきたりして、もしかして桜木さんはこういったモデルケースを身内に持っておられたのかと思うくらいです。

たとえばですね、百合江の父親は自分が酔いつぶれるまで飲むことになんの抵抗も覚えない人ですが、一旦自分の妻がちびちび汚い飲み方をして、前後不覚になって、ケラケラ笑い出すようになると、その妻の腹を自分の足で思いっきりどーんと蹴飛ばすんですよ。

こういうの、最低の暴力、最低の男を描くのが非常にうまい。昔だって、わたしの子供の頃には小学校もいっていないお爺さんなんかそこらへんにいっぱいいましたけど、それでもきちんとしているひとは非常にきちんとしていた。なんだろう、この差は、ね。その人の気概の差なのかなぁ。




最後、結局読者は、百合江の行方不明になった娘がどうなったかを、びっくりするような展開で知るわけですが、これはね、読者によって意見が分かれるところです。

「良かった~。最後幸せになっていて胸にジンときました」と思う人。

「いや、なんにもよくない。こんなことで喜んでいる人は、人生の本当の幸せがなんたるかってことをわかっていない」と思う人の二つに分かれると思うんですよ。

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どうもある時点で百合江はわが娘がどこでどうしているかを、知っていたらしいんですね。
図らずも失った娘は幸せに生きていた。


やはり、百合江は貧しくとも親子ふたりで気概をもって生きていった、あのころのことを誇らしく思っていたからこそ、実は生きている子供も死んだものとして、位牌まで作っていたのだろうと思うのです。


ものすごく感動させられました。
まぁ、わたしもある意味機能不全な一家に育ったんで、とても他人事とは思えずに、没頭してしまいました。

子どもは良識をもった愛情深い二親に育てられてこそ、本来の力を発揮できるもんだと信じています。



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