19世紀のイギリスの階級社会 [ひとつの考察]

皆さま、こんにちは。

この間、『高慢と偏見』のレビューを書いていて、
ふと「ダーシーさんって、どういう身分なんだろう?」と疑問を感じてしまいました。
わたし、原作も読んでいるのに、時代背景には無頓着でした。

初めはてっきり貴族かなと思ったのですが、英語で「ミスター・ダーシー」と呼ばれているし、
爵位の中で身分が低い准男爵のバロネットでさえ、イギリスでは敬意を払われて
「サー・ジョン(この場合はファーストネームが入る)」と呼ばれているのに、
貴族だったら絶対にミスターなんて呼ばれないはずなのです。

20161016-13917.jpg


ダーシーさんの叔母でレディ・キャサリンって本当に高慢ちきな人がいて
この人は自分の娘を大金持ちの甥のもとへ嫁がせようという心づもりだったので、
ダーシー氏がエリザベスを見初めて結婚するかもしれないという噂を耳にし、
エリザベスに結婚を辞退させようと乗り込んでくるシーンがあります。

そのとき、エリザベスは
「あなたは身分の低い家の娘と私を貶められますが、私は紳士の娘です。
ジェントルマンであるダーシーさんとの身分の隔たりはありません。
わたしは自分が幸福になれるかもしれない有利な申し出をお断りする必要はないと思っています」
ってカンジで啖呵切るんですよね。

これ、ドラマを見ていた限りは「うん? なんだろ?」ぽかーんとみていたのですが、

確かにレディ・キャサリンっていうのは「レディ」とついてはいるものの、
夫の身分というのは「サー」の称号がつく「ナイト(騎士)」に過ぎないのですよ。
つまり、レディという敬称はついたとしても、彼女は貴族じゃないってことです。

当時のイギリスは大きくいって、三つの階級にわけられたようです。
「上流階級」
「中流階級」
「労働者階級」
ですね。

で、この上流階級ですが、どういう人たちなのかというと、
まぁ、王室に出入りできる、王室貴族ですね。それともう一つ、ジェントリです。
貴族は皆さまもよくご存じのように、伯爵とか公爵とかタイトルを持っている人たちです。
ジェントリがこの場合ちょっと難しくて、一応爵位を持たない地主と規定できるのだそうです。
とはいえ、全く爵位がないわけでなく、伯爵(Earl)、子爵、男爵。つまり、これらの人は爵位を持っていたとしても王室に出入りできない貴族なんでしょうねぇ、おそらく。

さらにジェントリには階級がありまして、
准男爵(バロネット)、騎士(サー)、従騎士(エクスワイヤ)、そして紳士(ジェントルマン)となるわけですね。

まぁ、それでもレディ・キャサリンは自分は騎士の妻であるってことにものすごく誇りをもっているわけ。

ですが、ダーシーさんは金持ちかもしれないけど、地位的にはただの『ジェントルマン」にすぎないわけですよ。


ですからエリザベスはこういったんですよ。
「まぁ、うちと比べて多少お金を持ってるかもしんないけど、あんただって実のところ、貴族じゃないんだよ。身分としては同じジェントリなんだよ。騎士ぐらいでモタモタ言わないで」

すごいです。はっきり言いますなぁ。



20161016-13915.jpg

ダーシーさんの年収は1万ポンド。親友のビングリー氏はその半分の5000ポンド、そしてレディ・キャサリンは6000ポンド。そしてエリザベスのベネット家は2000ポンドだそうです。


こう聞くと、ベネット家は貧乏なんだね、って思うでしょ。その日ぐらしなんだね、って思うじゃない?違うのね。

この人たちは、仕事をしないで、地代などで上がる年収入がこれだけなんですよ。
じゃあ、小作などの庶民はどれだけお金を稼いでいたかっていうと、だいたい100ポンド内外ということです。
それに比べたらすごいでしょ。20倍年収があるんだよね。

ですから、たとえ爵位はなかったとしても、イギリスのジェントルマンっていうのは、歴然としたお金持ち階級だったってことですね。

また、ダーシーさんは爵位こそないけれど、広大な荘園を持っていて財産は貴族並みにあったということです。


まぁ、今の日本の感覚でいえば、ベネットさんちのお父さんの年収入は2000万で、レディ・キャサリンの家の6000万にはおよばないかもしれないけど、平均的な年収のサラリーマン一家から比べたら、どっちもお金持ちじゃないですか。要はそういうことなんですよ。
それをことさらにレディ・キャサリンは「あなたの家のような低い地位の方と…」と貶めるけど、そんなの、本当の貴族から見たら、目くそ鼻くそって話だよね、ってこと。



でも、このまえ、書いた『ダウントン・アビー』のグランサム伯爵家というのは、たしかダーシーさんの年収より、ずっとずっと多かったような気もするんだけど…。(解説が書いてあったサイトが探しきれない!)
ジェントルマンのダーシーさんは財産は貴族並みにあったけど、
すごい貴族はもっとすごい!ってことです。

でもよく考えてみると、このジェントリの人々っていうのは、もともと先祖が貴族の次男か三男であった可能性もあるわけで、だからこそ、爵位はなくとも、これだけの財産を残すことができるわけですよね。
つまり例えば、3世代前の先祖が貴族の長男でなく部屋住みに甘んじて、その後、ジェントルマンの身分で生きていたとしても、また原嗣相続のお蔭で、本家に女ばっかりしか生まれなかったりすると財産が転がり込んで来る可能性もあるわけですね。

~~~~~~~~~~~~

あ、それで今気が付きました。
このレディ・キャサリンこと、キャサリン・ド・バーグ夫人っていうのは未亡人なのですよ。
ということは、この人は娘しかいないので、ド・バーグ家の財産っていうのは誰か、他の親戚の男にもっていかれているってことですよね。
それはもしかしてダーシーさんかなぁと。
でも、年収がどうして女所帯なのに6000ポンドも入ってくるのだろう???

(不動産の相続の際、限嗣封土権(fee tail)は、「男子のみ相続可能(fee tail male)」「女子のみ相続可能(fee tail female)」「特定の者のみ相続(fee tail special)」とあったそうです。)
→他のサイトに書いてありました。

相続の仕方にも違いがあるってことか…。



それでも、レディ・キャサリンは甥のダーシーさんと自分の娘が結婚するのが道義的にも正しいはずだ、と思っているんですよ。
それなのに、どこの馬の骨ともわからないエリザベスが、まるでトンビが油揚げをかっさらうようにして、自分の甥と結婚するのが許せなかったんでしょう。
この人の結婚観というのは、家の財産のために結婚するのですよ。
だけど、エリザベスはもうちょっと啓蒙された人間で、お互いに尊敬しあい、理解しあい、愛し合える二人だからこそ、結婚するんですね。そりゃ財産があったほうがいいに決まってます。




もともとイギリスは上流階級の人口がフランスなんかと比べてものすごく少ないんだそうです。

で。じゃあ上流階級と中産階級とどこが違うと思うでしょ?
それはたぶん、「働いているか」どうかなんだと思うんですよね。
いくらお金もちでも、商売していたら「中産階級」。そこに身分の差が生じるんでしょうね。

たしか、「ミス・ポター」って映画みたとき、ベアトリクス・ポターはジェントリだったのに対し、ユアン・マクレガーが演じていた恋人は印刷屋さんで働いていたので、ポターの家の人が「あんな家の男と!」って軽蔑していたのを思い出しました。


まぁ、こういう状態が第一次世界大戦が終わるまで続くのですね。
自由・平等・友愛と一言で言いますが、なかなか実現するのには時間がかかったってことですよ。




nice!(2)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。