シニカルな語り口 『純愛小説』 篠田節子② [読書・映画感想]
皆さま、こんにちは。
今日は篠田節子さんの『純愛小説』の中に収められている
『蜂蜜色の女神』についてお話したいと思います。
東京のおしゃれなビルにメンタルクリニックを開く女医のもとに、ある一人の女性が訪ねてきます。
その女性は自分自身のことではなく、実は夫について相談にきたのでした。
その女性がいうには、夫は一回り歳の違う女性と浮気をしているようだが、それはただの浮気じゃなくてどうも、精神に恐慌をきたしているのではないかというもの。
こういうこじゃれた土地のメンタルクリニックを訪れる患者というのは、たいていの場合深刻なものではなく、この女性のケースのように、夫の浮気で悩んでいるとか、姑、あるいは嫁と折り合いが悪いなど、いわゆる外に吐き出せない愚痴を言いに来るものがほとんどだった。
こんなふうに妻からの愚痴を一方的に聞いているだけではらちが明かないと思い、女医は女性にいいます。
「今度はぜひ旦那さんもご一緒においでください。カウンセリングはご夫婦一緒になさったほうがよいと思われます」と言ったのだった。
だがそれからしばらく、この夫婦がクリニックを訪れることはなかった。
女医はたぶん、夫婦の仲が回復したのだろうとそこはあまり深く考えなかったのだが、
あるとき再び、件の女性から電話がかってきたのだ。
「すみません、先生。主人をそちらへ連れて行きたかったのですが、実は主人は身体を悪くして入院していたものですから」とのこと。
話を聞いているうちに、女医は抜き差しならぬものを感じて女性に命じた。
「なるべく早く、ご主人と一緒にクリニックに来てくださいね」
ほどなく、その夫婦はクリニックにあらわれた。
そして、夫が妻に席を外させて語った話がすごい。
妻は今風の美白を熱心にしているまあまあみてくれのいい女だけど、
ぼくが出会った人はそういうんじゃないんですよ。って語るんですよね。
47歳の女性は、そういうのととは真逆な日によく当たった、蜂蜜色の美女だったんだと。
それも、日本人には珍しい彫りが深い容貌で、って話し出すんです。
なにかこう話を聞いていると、まるでインドのヤクシニーか、ゴーギャンの絵の中に出て来るようなそんな幻想的な女性のような、この世の人間じゃなくて、まるで女神なんですよね。
そんな女神に魅せられてしまって、抗いようがないのだと。
篠田さんが、こういう官能的な描写ってしないのかって思ったんですけど、さすが直木賞作家、すごいんですよ。これはもう、ホンモノを読むしかないな。夫とその女神とのシーンは圧巻です。
女医さんはそんなファビュラスな人が相手なら、それも仕方がないのかなぁと思う。
ですが、しばらくして夫の弟と妻がその女の家に押しかけて行って実際、どんな女なのかを確かめに行ったんですね。
そうすると二人は口をそろえてこき下ろすんですよ。
「真っ黒でゲジゲジ眉毛でたらこくちびるのとんでもないみっともない女なんですよ」と。
で、ものすごく太っていて、それはもう、なんだか遮光器土偶のようだったと。
ヤクシニーかと思ったら、遮光器土偶って何ですか、それって話です。
で、女医さんはなにか幻覚作用を起こすものを飲まされたのかもしれないと疑いだすんですよね~。
と、こんなふうになにかとんでもないものに取りつかれた人ってこんな感じなのかなぁって思うんです。
でも、一方で「美しさ」なんて非常い主観的なものだから、こんなふうに回りが醜女としか思えない女性とも、これほど官能的な夢に酔うことができるのなら、それはそれで幸せなんじゃないかって読んでいて思うのです。
このお話はどうなるのか、ってハラハラして読むのがよいので、これ以上、ネタばれはやめておきましょう。
今日は篠田節子さんの『純愛小説』の中に収められている
『蜂蜜色の女神』についてお話したいと思います。
東京のおしゃれなビルにメンタルクリニックを開く女医のもとに、ある一人の女性が訪ねてきます。
その女性は自分自身のことではなく、実は夫について相談にきたのでした。
その女性がいうには、夫は一回り歳の違う女性と浮気をしているようだが、それはただの浮気じゃなくてどうも、精神に恐慌をきたしているのではないかというもの。
こういうこじゃれた土地のメンタルクリニックを訪れる患者というのは、たいていの場合深刻なものではなく、この女性のケースのように、夫の浮気で悩んでいるとか、姑、あるいは嫁と折り合いが悪いなど、いわゆる外に吐き出せない愚痴を言いに来るものがほとんどだった。
こんなふうに妻からの愚痴を一方的に聞いているだけではらちが明かないと思い、女医は女性にいいます。
「今度はぜひ旦那さんもご一緒においでください。カウンセリングはご夫婦一緒になさったほうがよいと思われます」と言ったのだった。
だがそれからしばらく、この夫婦がクリニックを訪れることはなかった。
女医はたぶん、夫婦の仲が回復したのだろうとそこはあまり深く考えなかったのだが、
あるとき再び、件の女性から電話がかってきたのだ。
「すみません、先生。主人をそちらへ連れて行きたかったのですが、実は主人は身体を悪くして入院していたものですから」とのこと。
話を聞いているうちに、女医は抜き差しならぬものを感じて女性に命じた。
「なるべく早く、ご主人と一緒にクリニックに来てくださいね」
ほどなく、その夫婦はクリニックにあらわれた。
そして、夫が妻に席を外させて語った話がすごい。
妻は今風の美白を熱心にしているまあまあみてくれのいい女だけど、
ぼくが出会った人はそういうんじゃないんですよ。って語るんですよね。
47歳の女性は、そういうのととは真逆な日によく当たった、蜂蜜色の美女だったんだと。
それも、日本人には珍しい彫りが深い容貌で、って話し出すんです。
なにかこう話を聞いていると、まるでインドのヤクシニーか、ゴーギャンの絵の中に出て来るようなそんな幻想的な女性のような、この世の人間じゃなくて、まるで女神なんですよね。
そんな女神に魅せられてしまって、抗いようがないのだと。
篠田さんが、こういう官能的な描写ってしないのかって思ったんですけど、さすが直木賞作家、すごいんですよ。これはもう、ホンモノを読むしかないな。夫とその女神とのシーンは圧巻です。
女医さんはそんなファビュラスな人が相手なら、それも仕方がないのかなぁと思う。
ですが、しばらくして夫の弟と妻がその女の家に押しかけて行って実際、どんな女なのかを確かめに行ったんですね。
そうすると二人は口をそろえてこき下ろすんですよ。
「真っ黒でゲジゲジ眉毛でたらこくちびるのとんでもないみっともない女なんですよ」と。
で、ものすごく太っていて、それはもう、なんだか遮光器土偶のようだったと。
ヤクシニーかと思ったら、遮光器土偶って何ですか、それって話です。
で、女医さんはなにか幻覚作用を起こすものを飲まされたのかもしれないと疑いだすんですよね~。
と、こんなふうになにかとんでもないものに取りつかれた人ってこんな感じなのかなぁって思うんです。
でも、一方で「美しさ」なんて非常い主観的なものだから、こんなふうに回りが醜女としか思えない女性とも、これほど官能的な夢に酔うことができるのなら、それはそれで幸せなんじゃないかって読んでいて思うのです。
このお話はどうなるのか、ってハラハラして読むのがよいので、これ以上、ネタばれはやめておきましょう。